RECORD
Eno.10 クロの記録
回想(流血表現注意)
――またあの夢だ。
同じ軍服姿の男。名前も言いたくないクソ野郎。
姿だって見たくないのにこうして夢に現れる。
夢の内容はいつも同じ、俺や仲間を肉体的にも精神的にも虐げる場面だ。
「私、難しいことは何も言ってないのですけどねぇ……
あと少し、ほんの少しでいいのです。私の指示通りに動いてくれれば」
始まった。いつもの新兵いじめだ。またどこからか連れてきたのだろう。
俺よりも更に年下に見える子供が、クソ野郎に詰められる。
「…まぁまぁ、そう怯えないで下さい。
私は期待を込めてそう言ってるのですよ。分かりますね?」
怯えるのも無理もない。年齢もさることながら、あれの存在は恐怖そのものだ。
あの面に張り付いたような笑み。俺はあれ以外の表情を知らない。
あの男はどんな時でも笑っているのだ。もちろん、俺達を嬲る時でも。
「んー…これはいけませんね。私一個人として咎めるつもりは無いのですが
軍として、上官の命令は絶対という大鉄則があるのですよ。
そして光栄なことに、私も立場としてはそこそこ偉いものでして…ね
そんな私が貴方のような末端兵とは言え、見逃したと知れたら心証が悪い
この一帯を受け持つ以上、責任があるのです。……分かって頂けますね?」
いつもの常套句だ。申し訳無さそうにしているが其の実、命令に背けばどうなるか
新しく入った奴らに知らしめるためのデモンストレーションみたいなものだ。
わざわざ俺達を円のように囲わせ、その中心で行う。中々に性格が悪い。
殴る蹴るは当たり前、声が出ないほどに痛めつけ、また返事がないと躾が始まる。
この行為が終わるのもあの男の気分次第。
飽きてすぐ終わることもあれば、死ぬ寸前まで及ぶこともある。基準は分からない。
しかし、変わらないことが一つある。それは――
「ふむ、そろそろ良いでしょう。命令を守ることがいかに大切か
身を持って知れたでしょうから。良かったですねぇ。これが戦場でなくて。」
投げ捨てられた銃剣を手に取り、徐にその銃口を少年兵に突きつける。
「弾は抜いてますのでご安心下さい。
良いですか、戦場では、動きの悪い者から生命を散らすのです。
このように……ズドンと……おっと?」
立ち込める硝煙、拠点に響き渡った銃声。そして、動かなくなった少年兵。
ああ、まただ。あの男はまたやった。弾など、初めから抜いてなかったのだ。
「……あー、私としたことが、また貴重な戦力をこの手で散らしてしまいました
何ということでしょう、どうせ散らすなら、戦場で散って欲しかったのですがねぇ…」
こいつは分かってやっている。この恐怖を忘れさせないために定期的に
こうして恐怖で支配して、俺達を従順な軍犬に仕立てあげるのだ。
また俺の仲間が一人散っていく。こんなことをするために生まれたわけじゃないはずなのに
悔しくて拳が割れんばかりに力が入る。爪が食い込み、血が滲むのも自分では気付かない。
あの男を睨んでると、何故かいつも勘付かれる。そうして近寄り、俺にこう言う。
「クロ君、そんな顔をしないで。わんこの様に可愛い顔が台無しですよ。
いや、わんこの様にと言うよりも、貴方は十分わんこでしたね。これは失礼!
新兵の皆様、この子こそが我が軍の期待の星、期待のエース候補!
駄犬から忠実な軍のわんことして、大量に敵軍の主要部隊を潰してくれる子です!
最早この部隊は、彼の活躍なしには語れないでしょう!
さあさ、この可愛い可愛いクロ君に、皆様からも盛大な賛辞の拍手を!!」
円の中心まで手を引かれ、注目の的となった俺に鳴り止まんばかりの拍手が送られる。
やめてくれ、俺だって、俺だってこうなりたかった訳じゃない。
……こうするしか無かったんだ。
目を背ける場所がなく、視線が下に落ちれば、動かなくなった少年兵と目が合った。
銃痕から血が溢れ、血溜まりに横たわる亡骸を、俺はどんな顔して見ていたんだろう。
……これだから寝たくなかったんだ。最悪の寝覚めだった。
また海でも眺めるか、路地にでも行こうか、軽く何か食べようか
何でも良い、とにかく今は、少しでも気が紛れることがしたい。
同じ軍服姿の男。名前も言いたくないクソ野郎。
姿だって見たくないのにこうして夢に現れる。
夢の内容はいつも同じ、俺や仲間を肉体的にも精神的にも虐げる場面だ。
「私、難しいことは何も言ってないのですけどねぇ……
あと少し、ほんの少しでいいのです。私の指示通りに動いてくれれば」
始まった。いつもの新兵いじめだ。またどこからか連れてきたのだろう。
俺よりも更に年下に見える子供が、クソ野郎に詰められる。
「…まぁまぁ、そう怯えないで下さい。
私は期待を込めてそう言ってるのですよ。分かりますね?」
怯えるのも無理もない。年齢もさることながら、あれの存在は恐怖そのものだ。
あの面に張り付いたような笑み。俺はあれ以外の表情を知らない。
あの男はどんな時でも笑っているのだ。もちろん、俺達を嬲る時でも。
「んー…これはいけませんね。私一個人として咎めるつもりは無いのですが
軍として、上官の命令は絶対という大鉄則があるのですよ。
そして光栄なことに、私も立場としてはそこそこ偉いものでして…ね
そんな私が貴方のような末端兵とは言え、見逃したと知れたら心証が悪い
この一帯を受け持つ以上、責任があるのです。……分かって頂けますね?」
いつもの常套句だ。申し訳無さそうにしているが其の実、命令に背けばどうなるか
新しく入った奴らに知らしめるためのデモンストレーションみたいなものだ。
わざわざ俺達を円のように囲わせ、その中心で行う。中々に性格が悪い。
殴る蹴るは当たり前、声が出ないほどに痛めつけ、また返事がないと躾が始まる。
この行為が終わるのもあの男の気分次第。
飽きてすぐ終わることもあれば、死ぬ寸前まで及ぶこともある。基準は分からない。
しかし、変わらないことが一つある。それは――
「ふむ、そろそろ良いでしょう。命令を守ることがいかに大切か
身を持って知れたでしょうから。良かったですねぇ。これが戦場でなくて。」
投げ捨てられた銃剣を手に取り、徐にその銃口を少年兵に突きつける。
「弾は抜いてますのでご安心下さい。
良いですか、戦場では、動きの悪い者から生命を散らすのです。
このように……ズドンと……おっと?」
立ち込める硝煙、拠点に響き渡った銃声。そして、動かなくなった少年兵。
ああ、まただ。あの男はまたやった。弾など、初めから抜いてなかったのだ。
「……あー、私としたことが、また貴重な戦力をこの手で散らしてしまいました
何ということでしょう、どうせ散らすなら、戦場で散って欲しかったのですがねぇ…」
こいつは分かってやっている。この恐怖を忘れさせないために定期的に
こうして恐怖で支配して、俺達を従順な軍犬に仕立てあげるのだ。
また俺の仲間が一人散っていく。こんなことをするために生まれたわけじゃないはずなのに
悔しくて拳が割れんばかりに力が入る。爪が食い込み、血が滲むのも自分では気付かない。
あの男を睨んでると、何故かいつも勘付かれる。そうして近寄り、俺にこう言う。
「クロ君、そんな顔をしないで。わんこの様に可愛い顔が台無しですよ。
いや、わんこの様にと言うよりも、貴方は十分わんこでしたね。これは失礼!
新兵の皆様、この子こそが我が軍の期待の星、期待のエース候補!
駄犬から忠実な軍のわんことして、大量に敵軍の主要部隊を潰してくれる子です!
最早この部隊は、彼の活躍なしには語れないでしょう!
さあさ、この可愛い可愛いクロ君に、皆様からも盛大な賛辞の拍手を!!」
円の中心まで手を引かれ、注目の的となった俺に鳴り止まんばかりの拍手が送られる。
やめてくれ、俺だって、俺だってこうなりたかった訳じゃない。
……こうするしか無かったんだ。
目を背ける場所がなく、視線が下に落ちれば、動かなくなった少年兵と目が合った。
銃痕から血が溢れ、血溜まりに横たわる亡骸を、俺はどんな顔して見ていたんだろう。
……これだから寝たくなかったんだ。最悪の寝覚めだった。
また海でも眺めるか、路地にでも行こうか、軽く何か食べようか
何でも良い、とにかく今は、少しでも気が紛れることがしたい。