RECORD

Eno.330 ユラカイト・イチヤの記録

別世界の闇にて ∞








「……あ」








倒れていた男が目を覚ます。



確かあいつに勝てなくて、それで紙飛行機を破り捨てて、それで……






これまでの出来事を思い出せる限り思い出す。



紙飛行機を破った時から記憶はないが、間違いなくそれからアマテラスを倒したのだろうと察する。






「…しかし一度、紙飛行機を破ったということは」
「知一との約束を破ったということだ」

「なんと言われるかのう……」








自らの身を案じるも、仕方がなかったと正直に伝えるしかない。



そう決めた男が、少し辛そうにしながら立ち上がる。






「…ここは元居た世界、このまま山から抜けて弟子に会うのも良いが……」





「知一に会って、謝って、そしてみんなと会って、別れを告げる。
 そうしなければ大変失礼だ」








目の前に落ちている、紙飛行機を拾い上げて懐にしまう。



ラムロンに戻ったおかげで魔力が充填された男は、フラウィウスに戻るため転移の呪文を唱え始める。



この呪文は男の体に大きい負荷をかけるため、無事に戻れるかは本人もわからない。



それでも、皆に会いたい一心で詠唱を止めない。






なぜなら、フラウィウスはもう一つの故郷なのだから……





































「…イ……ジ……」



「…ジイ……ジジイ………おい……!」






「おいジジイ!いつまで寝てんだよ!おい!!」














…聞き覚えのある声に怒鳴られて、目が覚める。



見慣れた天井、見慣れた日差し。






そして傍には、青褐の長着を着た男永久 知一がいた。






「…あ……あぁ……」





「…おい、どうしたんだよジ



「ああああああああぁぁぁああああああぁぁぁ戻ってこれたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」



「うわうるっさお前!!他が起きたらどうすんだよ!!」








宿の一室に絶叫が響く。



その後、知一が居合の速さで近隣に菓子折りを置いてから戻る。






「はぁ…いや叫びてぇのはこっちだよ……マジで戻ってきてよかったよ……」





「はは…心配をかけたようで本当にすまなかったの……」














「…それよりお前、また俺の力を使っただろ」








そう切り出された男が少し目を瞑る。



知一には命を落とす可能性がある力を持っており、既にもう力を借りないことをお互い約束していた。



しかし、男はその力を一時だけ得てしまった。



そうでもしなければいけなかったと判断したからだ。



男が目を開いて、知一の目を見ながら話す。






「…その事は申し訳ない。そなたが知るか否かは関係ないが、
 蒼狼のクソッタレを討つために使った。

 …自分の力ではどうしようもなかった。だから、逃げるために使った」








知一は身体をわなわなと震わすが、静かに男の話を聞いている。






「…許してくれとは言わぬ。そなたを救えたとしても、結局は過ちを犯した。
 破れば……虚無の供物にされるのだろう?」

「覚悟はできておる。さあ、早く呑んでおくれ」








男は再び目を瞑り、拳を膝の上に乗せる。



思い残すことは何もない。さあ、一思いにやってくれ。


















ああでも、最後に一回だけでも、弟子の顔は見たかった……


















次に視界が明るくなったのは、頬に鋭い痛みを感じた時だ。






…頬が痛い。まさか、叩かれたのか?



彼の手を見れば、少しだけ赤くなっているのがわかった。



しかし、なぜ……?






「……確かにお前は約束を破った。
 その責任として無に還さなければいけないのも事実」



「…こんな話に私情は入っちゃいけねぇけどさ、
 少なくとも俺は恩人を手にかけることはできねぇよ」



「……だからよ、今回は大目に見てやるよ」








意外な言葉。






「しかし、約束は約束ではないのかね?
 お互い命がなかったかもしれない、それほど大きな約束を破ったのだぞ…?」








「…何言ってんだ、お前が破ったのはただの紙飛行機だ。
 何の意識もしないで破ったら、親玉がいつの間にか消えていた。
 ただそれだけのことじゃないか?」








…腑に落ちない。



でも、一部だけ記憶がないのだから、彼の言うことも一理あるかもしれない。






そう、俺が破ったこの紙飛行機は、きっと普通の紙飛行機だったんだ。



記憶がないのも、戦闘続きで無防備に寝ていただけだ。



きっとアマテラスも、死んだと勘違いして消えただけだ。






きっと、きっとそうだ……












あぁ、なぜか知らねぇけど、涙が止まんねぇ……






戻ってきてくれてありがとうな、そしていつか、またなと言わなきゃいけねぇ。