RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

日記46


―― 蝶の羽ばたきで、突風が吹いた

自分の姿を見て、奮い立たされた者が立ち上がること。
あたしの姿を見て、俺に憧れて、強さを求めてひたむきに進んでくれること。
そうしていつか。ウサギを追い越して、頂点へ舞い踊ること。


切願する夢は実現されるのだと知った。
俺を見つけてくれまだ若い人間は、俺を追いかけてハヤブサへと至った。



ウサギは負けたときの方が嬉しそうな様を見せる。
それは、己より強い者へ出会えた歓び。
それは、己を超えてくれたことの歓び。
それは、将来高みに君臨する可能性を垣間見た歓び。

ウサギにとって、戦いとはツールだ。
強者との対話手段、そして人を知るための挨拶だ。




実を言うと、ここに来た頃『あたし』というアイデンティティは少し揺らいでいた。
というのも、ここでは戦う理由が元の世界と比べると甘かったからだ。
人々の心を掴み、魅せることで自身を釘付けにする。
けれどここには元より強さに対して誠実な人が多く、『あたし』の仮面はあまり意味を成していなかった。
随分と『俺』の仮面で振る舞っていた気がする。
ここには演技で騙される者が殆どおらず、むしろ『俺』の方が好意的に見られる印象があった。
なんなら、どちらでもいいという意見も多かった。



それでは、あたしという演技をやめてもよかったのでは、と問われると。
それは、否だ。あたしというアイデンティティは、姉への憧憬そのものでもある。
己の理想を振る舞い、己の憧憬を演じること。それは、己の理想の姿だったから。


確かな手ごたえを感じた。
あたしの成したいことは、ここでも成すことができた。

あたしの存在は、確かに意味があった。