RECORD

Eno.307 ルカ&ファーディの記録

落第

ファーディが魔法の練習を始めた時、頭に思い浮かんだことがあった。
それは、ファーディはもう無理に僕の隣にいる必要が無いということ。

最初に会った二年前は、僕の部下という立場だった。
体を共有していた頃は、優しいファーディには死にかけの僕を放置できないという理由があった。
じゃあ、体が分かれて僕が一人でも死ななくなった今は?

人間より強靭かつ変身能力のある肉体を持っていて、これから魔法も修得できる。
僕と違って帰れない理由も無い。
……一人帰国して困っている人々を救って回ることもできる。
ファーディは故郷で英雄にだってなれるかもしれない。
その道を歩んだ方が、沢山の人に愛されて幸せになれるんじゃないだろうか。

それを話したらファーディは拒否して、感情的になってしまったのか喧嘩になって。
走り去っていったファーディの姿を見て、思った。
僕は本当に一人になって平気なのか。今の時点でこんなにも打ちひしがれているのに。

故郷にいた頃の僕は病弱ながら貴族の端くれだった。
私情に流されるだけではいけない、人々の幸福の為に動かなければならないと教わった。
この苦しみも呑み込んで、ファーディに『故郷に尽くせ』と命令する方が多分正しい。

でもファーディが戻ってきて、ルカといることが幸せだ、一緒の時を過ごしたいと説かれて、抱きしめられて。
僕も同じ気持ちだと改めて気づいて。
その二つの個人的な幸福――特にファーディの――を無碍にすることは僕にはできなかった。

僕たちは多くへの貢献より、僕たちの私欲をとった。
元々向いていないとは思っていたけれど、やっぱり僕は貴族としては落第者だ。

◆◆◆

一緒にいる期間ってのは限られている。
俺は寿命の知れない人工魔法生物。果たして長寿なのか、短命なのか。
前者ならルカが、後者なら俺が先に逝くだろう。
それまでの貴重な時間を共に過ごさねェでどうする。

ルカは自分を貴族としては落第だって苦笑してたが。
俺だって英雄としては落第なのかもな。だがそれがどうした。
周囲を幸せにしたって自分たちを不幸にしてちゃしょうがねえだろう。
それに今の俺たちは貴族でも英雄候補でもない。
相棒との幸福を噛み締める、ただのルカとファーディだ。