RECORD

Eno.18 マネス・ミダスの記録

灰の神

「あ、ははははは!!
 久しぶりに俺を探し出し、呼び出して、
 何を頼むかと思えば」




「驕るなよシウェブ。
 たかが、海を支配する一柱が」





威圧感。
久しぶりに感じるものだ。
八の神が並ぶ神殿にて、この話を持ち出せば、
そうもなろうと思っていたが。

金の神、ゴルサンは黙ったまま、目を閉じている。
赤の神、ソアレラは、静かに、ただ怒りを込めてこちらを見ている。
白の神、セラウニは、何を言い出すのかと、しかめっ面。
黒の神、ヨルウルは、黙って、己の言葉に耳を傾けていた。

そして、灰の神ライゼニの妹である神――。

「さて、本当に下らぬ話ですか? ライゼニ」

――緑の神スヒジニが、静かに問いかけた。
その言葉に、同意するように黒の神であるヨルウルもまた言葉を掛ける。

「異世界の神とはいえ、たった一人で世界を維持している存在。
 そんな者を我らが見捨てていいの? って言いたいんでしょ、スヒジニはね」

「ええ、ヨルウル。
 ……創壁神という子の話は聞きました。
 シウェブが我々に独断で動き、挙句ライゼニを呼び出した事は、
 どうかと思われますが――そうした理由も分かりましょう」

穏やかな言葉だが、その裏にあるスヒジニの苛烈さを、皆が知っているがゆえに、
一旦全員黙った――いや。

「俺はごめんだよ、スヒジニ。
 いくらお前の意見とはいえ、そんなの面白くないじゃないか」

平気で、ライゼニが、拒絶の言葉を出す。
躊躇いなくそう伝えるような神が、我ら八色の神、
その長とも言える存在であるライゼニであった。

こちらに対する言葉は戯れで、そして、人の子らの言葉や人生は玩具であり、
面白い読み物としか、基本的には思わぬ者。
シウェブからすれば、最も好ましくない神の一柱である。
そして、それは恐らくスヒジニも同様であるがゆえに。

「面白い、面白くないの話ですか?」

声が、一段と低くなる。
そうして、大気が震えるが、ライゼニは気にする事もない。

「神が手を出して、ほいハッピーエンドなんて!
 ご都合のいいお話すぎやしないかい?
 しかも、我ら八神に対する願いとしては、度が超えているにも程がある」

それに。

「混沌、それもはっきり分かっていないんだろう?
 我らが手を出して、全て解決するなら、1000歩ぐらい譲っていいけどね。
 そんな分からぬものに関わって、こちらの世界に影響が及んだらどうする?
 
 それに、仮に創壁神がこちらの話を理解してくれたとして、
 移民も別に問題はないが、妖魔という問題がこっちだってある。
 平和ではあるがね、その平和な土地ばかりにそちらの民を、
 持っていくなども無理だろう?」

そこは、正論である。
本来であれば、全くもって許されない事だ。
神に対して、個人の願いを通そうとするなど、愚かにも程がある。
それを聞き入れた己にも、問題があるという事もよく知っている。
通常であれば、その願いを神官たち、そして大神官たちがよく吟味したうえで、
必要足り得るものかどうか確認する。

それか、大偉業を成し遂げた報酬として、神に謁見し、
願いを伝えるかどうかであり、まかり間違っても、
ただの小娘が通せる願いではなかったはずなのだ。

いずれにせよ、こうして己が、あまりにも安すぎる代価――あの者にとっては、
大きすぎる代価で動いているが――で動く事など、合ってはならない事であるのは、
変わりがない。

「だが、人の身ではどうにもならぬも事実であろう。
 そうして、その身を差し出す事を決めた、一人の決意を、
 軽く扱うのも我らとしてはどうだ?」

「ゴルサン、お前がその娘の味方をしたいのは分かるが、
 いくらなんでも道理が通らんよ。
 八色の大地の民でもない、ただの小娘ちゃんだろ?
 面白おかしい話の提供は嬉しいけど、さ」

押しても引いても、こうやってのらりくらり。
そして、面白くない事には情けも何もなく、ひたすらに返す。
己が面白い事にしか興味のない、
気まぐれで、傲慢で、残酷で、時に慈悲を与える偉大なる神。
それが、主神とも言うべき存在、ライゼニであった。
スヒジニとセラウニの兄とも言うべき存在ではあるが、
どちらからも、嫌われている、巨神。

だからこそ。

「確かに、俺があの娘に情を抱いているのは認めよう。
 だが、もう一つ――俺たちにも利益のある話ではある」

その言葉に、全員の目が向いた。
さて、利益のある話などと言ったが、どういう事か。
そう聞きたいのであろうと、思えば、己の言葉も吐き出す口は、
軽くなろうというものだ。

「あの停滞の力は、妖魔の星を――禍つ星を止める一手と成り得るかもしれん。
 不自然な停滞は、やがて、破壊を呼び起こすだろうが」

「お前」

「そうだ。
 そうなる前に、あの女神を説得するか、破壊された事にして、
 こちらの世界へと招き入れ、禍つ星を止める――もしくは、
 封印する手立てとしたい。

 一つでも減れば、大分情勢は変わるだろうよ。

 そうすれば、向こうの民さえ望めば、
 こちらの世界に連れてこようとも」

その言葉に、全ての神の目が、こちらを向いた。