RECORD

Eno.18 マネス・ミダスの記録

ライゼニ

息が、出来ないとはこの事だった。
空気が震え、大地から足が動かせない。その眼差しから全てが見抜かれているような錯覚すら覚える。
全身に、鋼の鎖を絡められ、締め付けられるような圧迫感。

『ヴェルドンに、シルバリア、それからマネスの息子か』

広大な海をも思わせる水に満たされたその一室で、巨大な水龍が、
その身を、無数の灰雷に貫かれ封じられていた。
それが、この都市国家シールトンを治めている神、青のシウェブだとすぐに分かった。
そうして、それを為しているのが、今己の目の前にいる、道化のような仮面をつけ素顔を隠した、
灰色のフードとローブで一切の姿が見えない存在。

灰の神――灰雷の裁定者、ライゼニであると。

『雁首揃えて珍しいねえ。
 不死者たちがこんなに揃うとは、暇なのか』

いいや、ヨルウルもリウリヴも暇そうだったなと、ライゼニが言葉を付け足す。

『だが、ゴルサンが暇つぶしに寄こすようなもんでもないってのは分かる。
 なんか用事があるんだろう? この俺に』

「ええ、用事があって来ました。
 灰の神ライゼニ」

銀の不死者であるシルバリアが真っ先に口を開く。
それから、続いての言葉が――。

「貴方、ヴェセンスという男と"契約"を為されようとしていますね」

――理解は出来ないが、それが、ライゼニの不興を買うという言葉であり。



『相変わらず余計な事に、踏み込むな。
 シルバリア』




その声を聴いた瞬間に、全身が、恐怖で動かなくなった。