RECORD

Eno.977 浮椿の記録

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かつては夢を見たものだ。

かつては人であったものだ。

かつては、

かつては

かつては、人と同じように、天道のもとで生きてゆくのだと。

そう夢見ていたものだ。

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齢六つ。狭く暗い座敷牢のなかで、おさないおのこは月を見た。月の色は美しかった。
齢八つ。次第に、わかっていた。幼いながらも、知っていた。己にあの光は、眩しすぎる。

齢、十。ひとをあやめる術たるを知った。

齢十余り、七つのこと。
きょうだいを、父を、叔母を、叔父を、目につくものは全て斬った。斬らねば、斬らねばならん。

斬らねば我ら、生きてはいけん。

白檀香も、いつぞやにか失せた。


覚えていることは、それだけ。