RECORD

Eno.58 ミオリッツァの記録

讃歌に値せぬ者たち

 己が奇跡が人をそうでなくしてしまった時、己が奇跡が罪となることを知った。
 差し伸べた手が人を乞食とし、浅ましく、堕落した存在になってしまった時、悪を知った。
 人に手を差し伸べたはずが、今や自分は畜生が肥えるのを手助けしているのだ。
 立ち去ろうとした身を害するものを斬り払い、見下ろし、その目を見た。
 それは畜生の目であった。他者を食い物として寄生する、その存在の目があった。
 畜生は吠えた。


「お前が去れば村は滅びる」


 俺も妻も、子も犬も、村すべてがお前のせいで滅ぶのだと。
 お前の出すパンを喰らい、お前の癒す術に縋り、お前の剣の庇護を得られぬから村は滅ぶと。
 我らはまた痩せた畑を耕し、病に怯え野盗に怯える生活に戻るのだと。


「なるほど、理解した。儂が去れば村は滅びるのだな」




 そうだ、と男は言った。
 お前のせいだと。
 すべてお前が悪いのだと。
 歪んだ笑顔で男は言った。
 思わず、こう言った。
 

「では、滅ぶがいい。オレはお前たちの神ではない」




 それを聞いた時の男の顔は今でも覚えている。
 だが、その顔を覚えていても、己の選択と言葉に後悔はない。
 立ち上がるため差し伸べた手を引き抜こうとたがえたのは、彼らのその精神なのだ。

 もっとも尊き黄金律に背いた浅ましき者どもには、いかなる施しも意味をなさない。
 立ち上がろうとせぬ者に、杖と道は必要ない。