RECORD

Eno.182 西森風香の記録

main: 魔法少女とサポーター

「ここね、あたしの力が求められているのは……!」


その日、モノマキアが行われるアレーナへ現れた少女は、何やら揉めている気配を感じて、
迷わず一直線に、渦中と思わしき場所へと向かった。

彼女の名前は、西森にしもり風香ふうか
あるいは、魔法少女シャイニーハート。
とある世界からフラフィウスへと召喚された、女神から戦う能力を授けられた少女である。

……しかし。
受付ロビーの一画にたどり着いた彼女は、予想とは違う光景に首を傾げた。

「モノマキアには僕が出るよ! 要は殺し合いするんでしょ? フィンには危ないよ」

「そんな…! あぶないの、だめだとおもうの…!
 フェルムちゃんが、いなくなっちゃうの、やだ…」

「僕の心配してくれて嬉しいな!
 僕も同じ気持ちだよ、フィンにはいなくなって欲しくない」


受付で揉めているか、もっと悪ければルール無用の乱闘でも起きているのかと危惧した風香だったが、
実際には、戦闘慣れしていなさそうな子供が二人で、どっちが危険な役目を負うかで心配しあっているだけ、に見える。
微妙に二人の心配が噛み合っていないようにも見えるが、それを除けば、微笑ましい友情、と言っても良さそうな。

「なんだ、ケンカじゃなかったのね。良かったわ」

「……それはそれとして。
 戦う力のない子供が登録しようとしているのなら、見過ごせないわね」


思ったようなトラブルではなかったことに、まずは一安心。
続いて、力のない子供が無理をしようとしているのなら、それはまた別の意味で看過できない、と気を引き締める。
無力な市民の安全を守るのもまた、魔法少女の使命であった。

風香は、なるべく警戒されないように、二人の子供に声をかける。

「ねえ、あなたたち。フラウィウスには来たばかり?
 ここでは、誰もが闘技者になる必要はないわ。サポーターとして応援に来ている人もいるの。
 もし良かったら、あたしのサポーターとして、フラウィウスで過ごさないかしら?」

「えっ、サポーター?」
「?」


ほとんど同時に振り返った二人は、女性的な体つきの風香から見ると、揃って平たい体をしている。
幼い方は、顔立ちと服装から少女だとわかるが、
もう一人は少年のような服装こそしているものの、少女のような顔をしていて声も高い。
声変わり前と言われれば少年に見えるし、少女が男装しているだけのようにも見えた。

もしも少年だったなら、いきなり魅力的な魔法少女に話しかけられて、萎縮させてしまうかも知れない。
彼女のいた世界では、市民が魔法少女へと強い憧れの感情を向けることはよくあった。
それを心得ている風香は、つとめて冷静に、かつ一線を引くように、ビジネススマイルを浮かべた。

「そう。あっ、まずは自己紹介が先ね。
 あたしは風香よ。元の世界では、平和を守る魔法少女をしていたの。
 フラフィウスでも、闘技者として登録しているのよ」

「フウカおねえさん! はじめまして、です!」

「初めまして、フウカ。
 僕はフェルム。この子はフィンだよ。
 それで、えーっと……僕たちが君のサポーターになるって言うのは、
 君が僕たちの代わりに戦ってくれる、ってことでいいの?」


確認するようなフェルムの言葉に、風香は大きく頷いた。

「そう! 戦う役は、あたしがやるわ。
 その、さっき、二人が話している内容が聞こえて……
 二人とも、相手に戦って欲しくなくて、困っているのかしら、と思ったものだから。
 盗み聞きみたいになってごめんなさいね」

「盗み聞き? んー、僕は気にしないよ。
 それよりも、応援するだけで良いなら、助かるかも。
 僕はフィンに危ないことさせたくなかったけど、心配もさせたくなかったし」


「フィンはどう?」と振られた幼い方も、ほっとした様子で、こくんと頷く。
どうやら二人は、風香が心配したほど、緊張していないようだった。

「おうえん、とくいです!
 フウカおねえさん、ありがとー、ですっ」

「うふふ、どういたしまして。
 あたしも、誰かに応援してもらえる方が頑張れるから、ありがとうね。
 それじゃあ、サポーターの手続きをしちゃいましょう!」


無事に話がまとまって、三人は別の受付へと移動して行き、晴れてフラウィウスで過ごしていくことになる。



ちなみに、この時の風香は知る由もないことではあるが。

フィンがフェルムの闘技者登録を涙目で止めていたのは、フェルムがヒトではなく、またヒトの理解度が浅すぎるため、
「フェルムは試合と喧嘩と戦争の区別が付かないから、闘技者になったらすぐ場外乱闘起こしてお巡りさんに捕まるよ」
と、フラウィウスに来る前に、助言を受けていたからであった。