RECORD

Eno.566 マリナ・ザ・ストレンジの記録

● 《潮騒の》マリナ・ザ・ストレンジ-2


その海は、多くの船舶が沈没したり行方不明になったりする
「魔の海」であるとか、「船の墓場」であると長らく語られてきた海だった。
「粘りつく海」とも呼ばれるそこは、幾つもの伝説が重なる場所であり、
怪異が「発生」することもさもありなん、と言わんばかりの領域である。

曰く、風が吹かずに帆船が何週間も動けずにいる間に船体に海藻が絡みつき、
風が吹いた時にはすでに動けなくなってしまうだけでなく、
ボートで船を引っ張ろうとしてもそのボートのオールに海藻が絡みつくだとか。

かの探検家のコロンブスも航海記の中で、
海藻の多さを特筆すべきこととして挙げているし、
凪の多さもまた同じく特筆すべきこととして記録に長年残り続けている。

だけれども、一転してその海域は激しい水温の逆転層があることで
海水中の栄養分が少なく、プランクトンの数が非常に少なくもある。
そのせいで(いや、おかげか)、世界一透明度の高い海とも言われていて、
透明度の世界最高値である66.5mはこの海域で測定された事実もある。

彼女と出会ったのは、そういう場所であったという話で
また同時に、彼女は「そういうもの」であるという話にすぎない。

「凪ぎますね」

休暇中のわたしに話しかけてきた赤髪の彼女が怪異だと知れたのは、
わたしが大西洋の小島で幾分かバカンスを楽しんだあとのことだった。
だから、この時の私はまだ気がついていないというわけだ。

「そうねえ」

赤い髪を三つ編みに結った、麦わら帽子の美人。
水着の上に薄手の上着を羽織った、さながら避暑地のお嬢様。
それが私にとって、彼女の第一印象だったし、きっと、
私以外にとっても――彼女の第一印象はきっとそれなのだろう。