RECORD

Eno.76 ミシェル・サハスラーラの記録

思考記録 No.1

「さて、泥に沈もうか」



思考を、ゆっくりと、飲み込ませていく。
炎の中へ。
泥の中へ。
そこは、地獄にもよく似た。



「楽になりたかった。死にたかった。
死ねなかった。死ねる身体ではないから」



「楽になりたかった。死にたかった。
死にたくなかった。愛しき全てを託されたから」



「楽になりたかった。死にたかった。
死ぬ気に至らなかった。周りの期待があったから」



「楽になりたかった。死にたかった。
死を選ぶわけにはいかなかった。俺一人生き残ってしまったから」



「楽になりたかった。死にたかった。
死んではいけなかった。また水の都が壊されてしまうから」



「楽になりたかった。死にたかった。
生きるしかなかった。」



────ふと、理解した。


折れたくなかったから



ああ、なんだ、最初から足掻いていたじゃないか。


「楽になりたかった。生きていたかった。愛しい都市のために」



「楽になりたかった。生きていたかった。大好きな親友のために」



「楽になりたかった。生きていたかった。ちっとも幸せになんてなれないから」



ああ、答えは、簡単だった。
俺の楽になりたいというのは、決して、死にたいわけではなく。



「そう、俺は、楽になりたかった」



泥の中から、少しだけ這い出る。


「人として、ただ、幸せになりたかった」




「そう、俺は、幸せに、なりたかった」



ひとつ、解が出た。

泥は、ずっと足にまとわりついている。


けれど、共に歩くためなら。


「俺は、いくらでも、藻掻いて見せる」