RECORD
Eno.460 アドリアードの記録
故郷のこと
そこは生まれたときから深い雪と高い針葉樹に囲まれていた。
常に荒れた海は命という命を近づけさせやしない。
吹き付ける吹雪は容赦なく命の灯火を消そうとしてくる。
親兄弟の顔も知らずどこにでもいる孤児だった。
たびたび起こる、隣国との争いのせいで珍しくもなかったから。
隙間風があちこちで吹いてくる施設での日々は朧げだ、
あの頃の自分は生きているとも死んでるとも言えなかった。
ただただ日々を生きているだけで、何も目的なんてなく。
いや、でも、覚えてることはある。
飯がまずかったことを。
それが嫌で嫌でたまらなかった。
満腹には遠く足りない麦粥。
飲むたびに顔が歪む水。
果物など食べたことがあっただろうか。
十五になってからは徴兵されることになった。
隣国との争いに備えるため、
この国では十五になれば男女の区別なく兵士として養成される。
自分は、それを拒否することも頷くこともなく、
ただ気づけば銃剣をもって訓練する生活へと入っていた。
本当に、何も考えていなかった。
流されるように生きていて、それで良いとか悪いとか、
何も思うことがなかったなと。
それはそうだ。
そういう風に教育されていたからだ。
国のお偉いさんたちは隣国に勝つことしか考えていない。
そのためなら国民など道具のように使うことを望み、
どれだけ掃き溜めのような生活をしていようと改善する気もなかった。
流されるように軍へと入って戦場を駆け回る日々が始まり、
見知った顔が1日経つごとに壁の遺影となった。
そして生き残ったやつらが、その遺影を見て言う。
"名誉ある死に乾杯!"
初めて飲んだビールの味は、苦すぎてむせた。
こんなひどいものがあるのかと、涙がでるほどに。
けれど、みんなは笑顔だった。
酒は笑顔になれると、皆が信じてた。
嘘だ、嘘をついてる。
そのとき、確かにそう思考した。
それまで流されて生きていた自分が、立ち止まっていたんだ。
嘘でいいじゃないかと言う自分がいる。
嘘がなければこんな惨状で生きていけないんだから。
隣国との争いはずっとずっと前から、
もう開戦理由など誰も覚えてないころからしている。
ときおり、戦争などやめるべきだと言うやつがいて、
すぐに部隊から見なくなった。
イカれてる。
そう思考もした。
だんだん、自分のなかに周囲と己を疑う心が生まれていた。
産まれて、生きて、死ぬ。
その流れに疑問はなかった、ないはずだった。
でも抱いてしまった。
こんなところで、死にたくないと。
だから生き残ることに必死となった。
そのせいで、敵も味方も大勢"見殺し"にした。
数えきれない遺影を壁に掛けた。
壁に架けられるのは名誉なのだそうだ。
誰もいない部屋で、唾を吐いた。
ああ、まずい飯とまずい酒だ。
血と硝煙の匂いが鼻の奥にこびりついている。
砲弾と銃撃音、戦場の悲鳴が耳にくり返してる。
絶望して死ぬ仲間の顔が、目に焼き付いている。
この国は、言葉では言い現せないほどに、命の屠殺場だ。
常に荒れた海は命という命を近づけさせやしない。
吹き付ける吹雪は容赦なく命の灯火を消そうとしてくる。
親兄弟の顔も知らずどこにでもいる孤児だった。
たびたび起こる、隣国との争いのせいで珍しくもなかったから。
隙間風があちこちで吹いてくる施設での日々は朧げだ、
あの頃の自分は生きているとも死んでるとも言えなかった。
ただただ日々を生きているだけで、何も目的なんてなく。
いや、でも、覚えてることはある。
飯がまずかったことを。
それが嫌で嫌でたまらなかった。
満腹には遠く足りない麦粥。
飲むたびに顔が歪む水。
果物など食べたことがあっただろうか。
十五になってからは徴兵されることになった。
隣国との争いに備えるため、
この国では十五になれば男女の区別なく兵士として養成される。
自分は、それを拒否することも頷くこともなく、
ただ気づけば銃剣をもって訓練する生活へと入っていた。
本当に、何も考えていなかった。
流されるように生きていて、それで良いとか悪いとか、
何も思うことがなかったなと。
それはそうだ。
そういう風に教育されていたからだ。
国のお偉いさんたちは隣国に勝つことしか考えていない。
そのためなら国民など道具のように使うことを望み、
どれだけ掃き溜めのような生活をしていようと改善する気もなかった。
流されるように軍へと入って戦場を駆け回る日々が始まり、
見知った顔が1日経つごとに壁の遺影となった。
そして生き残ったやつらが、その遺影を見て言う。
"名誉ある死に乾杯!"
初めて飲んだビールの味は、苦すぎてむせた。
こんなひどいものがあるのかと、涙がでるほどに。
けれど、みんなは笑顔だった。
酒は笑顔になれると、皆が信じてた。
嘘だ、嘘をついてる。
そのとき、確かにそう思考した。
それまで流されて生きていた自分が、立ち止まっていたんだ。
嘘でいいじゃないかと言う自分がいる。
嘘がなければこんな惨状で生きていけないんだから。
隣国との争いはずっとずっと前から、
もう開戦理由など誰も覚えてないころからしている。
ときおり、戦争などやめるべきだと言うやつがいて、
すぐに部隊から見なくなった。
イカれてる。
そう思考もした。
だんだん、自分のなかに周囲と己を疑う心が生まれていた。
産まれて、生きて、死ぬ。
その流れに疑問はなかった、ないはずだった。
でも抱いてしまった。
こんなところで、死にたくないと。
だから生き残ることに必死となった。
そのせいで、敵も味方も大勢"見殺し"にした。
数えきれない遺影を壁に掛けた。
壁に架けられるのは名誉なのだそうだ。
誰もいない部屋で、唾を吐いた。
ああ、まずい飯とまずい酒だ。
血と硝煙の匂いが鼻の奥にこびりついている。
砲弾と銃撃音、戦場の悲鳴が耳にくり返してる。
絶望して死ぬ仲間の顔が、目に焼き付いている。
この国は、言葉では言い現せないほどに、命の屠殺場だ。