RECORD

Eno.76 ミシェル・サハスラーラの記録

思考記録 No.2

「さて、では約束どおりに」



思考を、再び泥に落とす。
燃えるように熱く、息が詰まる。
泥の中で、藻掻くのを諦めたように。
少しずつ、少しずつ。



「俺を苦しめているものは」



いくつか、思い浮かぶ。


「すべてを失った喪失感。永久に悪魔と戦い続けている苦痛」



単純な、痛み。


「必死に英雄として生きる自分、元通りになどならない愛した場所」



繕い続けている、不自由。


「リルリーリエへの不信感」



あれはただ、自分を最後の実験道具として扱った。


「俺が愛だと思ったものへの、失望」



何も、愛など返ってこなかった。


「家族は皆死んだ。救いは、彼女だけだった」



「なのに」



託して死んだ、なんて。
愛されて死んだ、なんて。
嘘っぱちばかり。
せめて、こればかりは良い記憶にしようと。
俺は、ここまで。

でも。
もういいだろう?



「家族を殺したのは、リルリーリエだったと、聞かされた」



「今からお前も永遠に苦しむのだと、告げられた」



「英雄になるのはいい気分でしょうね、なんて」



「もうアナタは永遠に死ねない、と、最期に満足気に笑って」



「気が狂いそうだった」



「彼女だ」



「全て全て全て、俺を苦しめているのは」




彼女のせいだ




泥から抜け出せない。
ああ、困ったな。
身動きが取れない。
流石に、これを考えるには。
早すぎたか。


「──参った、な」



どうしたものか。
この泥の沼は、息苦しすぎる。
肺に、泥が詰められていく。

どうにか、しなければ。