RECORD

Eno.367 フィリア・バルナルスの記録

日記4

―― フィリア・バルナルスという人間は嘘つきだ。


彼女から吐きだされる殆どの言葉は『本心』ではない。
あざとく振る舞い、人に好かれ、観客を盛り上げる。
その裏には荒々しく粗暴な獣が息をひそめている。
か弱い獲物だと油断をさせ……その喉笛を狙い、嚙み契り、地を舐めさせる狡猾なるウサギだ。


「なんてゴシップが取り上げられることもあったなぁ」




それで真実を暴いたつもりだったのだろうが、偶像を信じる者はそのような噂話を信じなかったし、実際に戦いを見に来ている者や実況を聞いている者は本性を知っている。
戦う様まで取り繕えない。むしろ、普段が愛くるしいからこそ、戦う様の荒々しさに惹かれる人間だっている。

分かりやすく男性に好かれ、女性に嫌われやすいのは変わらないが。
批判を浴びせながらも、なんだかんだ自分を見に来てくれる者も案外多い。


その時点で、こちらの『勝ち』だ。
フィリアという人間に魅せられて、引きこませられ、抜け出せなくなっている。
それでいい。勝利は勿論、何よりも自身を『魅せる』必要がある。
ただの勝利では意味がない。天駆けるウサギは、エンターティナーでなければならない。


R1 W-Rabbitがどこまでやれるのかの期待を背負う。
R1 W-Rabbitがいつ叩きのめされるのかの待望を背負う。
どちらも、ありがたい声援だ。







そのためにいくつも嘘をつく。
嘘をついて、騙して、欺いて。
好きにさせる振る舞いをして。荒々しい一面をちらつかせて。
盲目な人は気づかずにいるし、気づいた人はそれを覗き見ようとして引き込まれる。



「……あの人どうしてほしいどうしたいんだろうなぁ」


テンタティブのことを考える。できる限り生きてほしいと人々を願う。特別に誰かが好きというよりかは誰もかれもが好き。こちらの調子が悪そうな様を見て、酷く怯えたような顔をしていた。死に対して好感がない。
死に対して好感がある者の方が少ないと思ったが。己の関わった者が死することに異様に抵抗があるように思う。
変な話だと思う。17万歳も生きているのであれば、1つ1つの出会いなんてほんの僅かなひと時でしかない。それほどの長寿な者がどんな心を抱くのかなんて想像がつかないけれど、随分とあの人は人間の感性を持っていると思う。
人と関わり、人の死を見届け、何度も何度も繰り返す。



……分からないや。途方もなさ過ぎて、全く想像がつかない。
この推測が正しいのかも分からない。ただ、人の死を極力目にしたくない、死に怯えがあることは真だと思う。
自分の首にナイフでも突き立てて反応を確認するか? なんて極論を思いつくのは、あのオイルに気分を害されているからだろう。


こちらのことが嫌いなら嫌いでいい。
どうしても分かり合えない人間がいると割り切ればいい。
なのに、どうして――  考えたくなくて、ベッドの中で蹲った。




行かないで、くらい言えばよかったかもしれない。