RECORD

Eno.50 Liber·O·Igreedの記録

 僕の耳が聴こえないのは、僕の能力のせい。
 “聴劣化”―― 聴力を代償に『波』を操る。

 まあ、高性能補聴器と補助携帯機のお陰で、生活にそこまで不便はないにだけれども。

 僕がかつていたのは研究施設。内容は空間の歪みで起こる重力波を実用化出来ないか……だったかな。
 そこで僕は聴力を根こそぎ失い、“劣化”も使えなくなった。

 そうなった聴劣化の行き先は、本来は決まってる。他の魔導クローンはそうじゃないと言うから、聴劣化が変わり種なんだろうけど。

 悲鳴と慟哭の飛び交う戦地か。
 安寧と静けさの処分場か。

 それすらも嫌なら、路上で暮らすと良い。

 恐らく、というか正しくは逃亡はさせてはいけないのだと思う。
 自分の“劣化”のことはよく分かってる。通信機が発達し、光で夜暗に抗い、見えない電磁波の理解も進んだこの社会で『波』は重要だ。

 厳重管理が基本。

 ただ、僕らは『皮劣化』のように危険を孕んだ事もないし、自主的に事件を起こした事例もない。

 僕の居た施設でも、多分これが初めてじゃない。

 わざと扉は開けられていた。
 職員とすれ違っても、「いってらっしゃい」だとか「頑張ってね」って言われて。
 あっさり外に出られた。

 帰る場所のない魔導クローンが、また一人増えた瞬間だった。