RECORD

Eno.270 『血雨』のユーファの記録

ボロボロの手記の切れ端

 ――……月……日。
 スィリアクロヌに売られ、飼い主の下を逃げ出してこの場所に身を隠すようになってから数ヶ月。
 お腹の子がなんとか無事に産まれてきてくれた。
 何もかもが整っていないこの場所でこの子を産んだのは奇跡だと思うし、私を匿ってくれている皆も奇跡だと口を揃えて言っていた。
 誕生した我が子は、私の髪と目の色、あの人の鱗の色と目の色を受け継いでいた。

 ……きっと、あの人が守ってくれたに違いない。
 もうこの世にあの人はいないけれど、この子の中にあの人が生きた欠片が宿っているのだと思うと、泣きたい気持ちでいっぱいになった。
 あの人が私に残してくれた宝物。私は必ず、何があってもこの子を守り通す。



 ×月×日。
 可能な範囲で、あの子のことを記録に残していきたいと思う。
 あの子はユーファと名付けた。雨からの寵愛を深く受けていたあの人のように、この子も雨から愛されることを願っての名前。
 ユーファは今のところ、問題なく育ってくれている。
 私が稼ぎに出ている間はスラムの仲間たちに預かってもらっているけれど、私が不在の間も良い子にしてくれているそうだ。
 このまま、何事もなく順調に育っていってほしい。



 ×月×日。
 前まで記録に使っていたペンのインクがなくなって、次を手に入れるまでにずいぶんと時間がかかってしまった。
 変わらずここは最悪な環境だけれど、ユーファは元気に育ってくれている。
 お喋りもできるようになったし、スラムの子供たちと一緒に元気に遊びながら、ここでの過ごし方を順調に覚えてくれている。
 年上の子供たちと一緒に物乞いに行ったと聞いたときは驚いたけれど、みんないつもより多くお金や食べるものをもらえたと喜んでいた。

 ……でも、ユーファはできるだけ人の目には触れさせたくない。
 この子の腕にある鱗が数枚剥がされた痕跡があったから、この子はおそらく自分の鱗を他者との取引に出したんだと思う。
 この子には自らの身体を傷つけるようなことはしてほしくない。
 これからは、鱗を必要とする者との取引も私が出なくては。



 ×月×日。
 ユーファが私を真似て、舞の練習をするようになった。
 見様見真似の舞だったが、ちゃんとついてきていた辺り、この子はあの人に似て目が良いのかもしれない。
 愛しい我が子が私の舞を真似て、一生懸命覚えようとする姿には非常に愛らしいものがある。
 ……そろそろこの子にも竜族の間に伝わる歌を教え、この子が望むのであれば本格的に舞を教えてもいいのかもしれない。
 少しでもお金を稼ぐ方法は、早く身につけておいたほうが困らないだろうから。
 そのときは……竜族の歌だけは簡単に歌わないよう、ちゃんと言い聞かせておかなければ。





 ……月……日。
 あの人間たちを絶対に許さない。






 ……月……日。
 私が生きている限り、ユーファには指一本触れさせない。
 奴らはユーファがいれば私が大人しく言うことを聞くだろうと思っているようだけれど。
 いつか必ず、あの人間たちの喉笛を切り裂いて、この見世物小屋から出ていってみせる。
 だから、ごめんね。ユーファ。少しだけ、母を信じて待っていてね。


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