RECORD
Eno.53 オルヴァン・フォンスの記録
そうして彼は答えに至った
『因子、因子、元気ある、ない?生物』
「………」
『異物、因子、だいぶ異物らしくなったね』
「……………用がないなら黙ってろ、お前も可能性の一つなら斬り伏せる」
『因子の話、ちゃんと聞かないときっと後悔しちゃう、勿体無いね』
「………ようやく、話す気になったのか」
『ようやく、聞く気になったんだ』
珍しく、明瞭な声で言われた事に情動が枯れ果ててきていた男でも珍しく驚きを感じた。
『一度しか言わないよ』
曰く、この状況に至った経緯から、オルヴァンは一つの世界の区切りとなるこの一件、事象の中央として世界から認識を受けたらしい。
そうしたイレギュラーな存在である事から可能性達はオルヴァンにだけコンタクトをとってきたらしい。
…それ自体もオルヴァンからすれば何とも規模の大きい話でいまいち実感の湧かない事柄ではあるが。そう感じている事と、それを遮るかどうかは別だった、遮るだけならば辺りの化け物達が問答無用で遮るつもりもなく襲いかかってくるから足りていた。
して、そうなったオルヴァンが境界に落ちてきた、可能性の捨て場、この場所においては生身の肉体的認識よりもその存在的認識こそが要となる、オルヴァンが意識を取り戻して早々に空間に振り回された様に。だが、オルヴァン自身の認識で最も強い優先度を持つのはその点としての認識を持った世界側からの認識を要に彼は存在している。
つまり、あの一件を含めたオルヴァンの住まう世界の特性、災いやそれに近い物が頻繁に、絶え間なく起こる世界としての認識。
つまりかの世界の象徴たる災いの事象の因子としてこの場にあるのだ。
「…待て、ならば元の世界に吐き出されるならば、何も問題ないではないか。あの世界は元から…いや、俄には認め難い話だが元からそうであるなら、その因子として認識されていようが変化はないはず──」
『吐き出す先、分かんない、移ろい過ぎて、生きた人が来た事ない、ない?ないから』
「……だとしたら異なる世界に。いや、そうしたところで人間一つ分の因子が入り込んだところで…」
『思える?分かんない、実感、なら、見て知って』
「!?」
それは、霧の時代と後に呼ばれる災厄の時代の姿。
辺りに漂い続ける霧は空をも薄紫に変え、生物は人間動物植物問わず生物という物を魔物に変えてしまう大きな災い。
その霧から逃れる手段はない。
魔界の門より放たれる希釈をされない最高濃度の魔力達は生物の魔力の許容量を簡単に飛び越えて生物の肉体を変質させ、殺意の化け物にかえる。
魔物は人が簡単に倒せる物ではない。
魔物はもう二度と元の姿も、感情も、取り戻すことはない。
それを止められるのは勇者ただ1人、勇者の命を以て門を閉じる以外の道はない。
「……」
それもこれも、あの計画の、あの一件が招いた結果だ。
その負債はあの世界にいる人々へ、そしてその不始末の分は勇者と呼ばれる少年へ。
「………」
オルヴァンの家族は、どうなるのか。死んでいった人々の家族は、遺された子供達は、皆は
「…………」
そう、この様な災いを招いたのは
「…………………俺の…」
「俺の、責任だ……」
俺達、と言わなかったのは。もはや彼しかもういないからだ。
「…………この様なことを起こす、因子を…運んではならない。罪のない人々からこれ以上奪っては、ならない…ッ」
嘆きたい、こんなはずではなかったと、こんなの望んでないと喚きたい。だが、今1番嘆きを口にしたいのはその分の負債を負わされたあの世界の人々なのだ。
だから
『どうする?』
「因子は、世界からの認識が要…なのだな」
だから
『そう、そう』
「………なら、因子の優先度を最弱にしたら、良い…他の世界からの認識を要に変えてしまえば良い…俺という存在を弱くしてしまえば事実上の無効化が可能だ」
『………するの?』
「ああ……」
この後、これからどうなってしまうのだろう。
ここまで、数多の屍を踏み台に生き残ってきたのに。だけどこの選択をする以外、それに報いる術が思いつく事はなかった。
死は救いではない、生も救いではない、男はただ償う為にこの命を選ぶ。
命を選ぶ為に、捨てるのだ。
「…ッ」
「俺は……おれは……っ」
「俺は、この、真名を…放棄する!!」
ただ、ただ、不器用な人間だったのだ。
「………」
『異物、因子、だいぶ異物らしくなったね』
「……………用がないなら黙ってろ、お前も可能性の一つなら斬り伏せる」
『因子の話、ちゃんと聞かないときっと後悔しちゃう、勿体無いね』
「………ようやく、話す気になったのか」
『ようやく、聞く気になったんだ』
珍しく、明瞭な声で言われた事に情動が枯れ果ててきていた男でも珍しく驚きを感じた。
『一度しか言わないよ』
曰く、この状況に至った経緯から、オルヴァンは一つの世界の区切りとなるこの一件、事象の中央として世界から認識を受けたらしい。
そうしたイレギュラーな存在である事から可能性達はオルヴァンにだけコンタクトをとってきたらしい。
…それ自体もオルヴァンからすれば何とも規模の大きい話でいまいち実感の湧かない事柄ではあるが。そう感じている事と、それを遮るかどうかは別だった、遮るだけならば辺りの化け物達が問答無用で遮るつもりもなく襲いかかってくるから足りていた。
して、そうなったオルヴァンが境界に落ちてきた、可能性の捨て場、この場所においては生身の肉体的認識よりもその存在的認識こそが要となる、オルヴァンが意識を取り戻して早々に空間に振り回された様に。だが、オルヴァン自身の認識で最も強い優先度を持つのはその点としての認識を持った世界側からの認識を要に彼は存在している。
つまり、あの一件を含めたオルヴァンの住まう世界の特性、災いやそれに近い物が頻繁に、絶え間なく起こる世界としての認識。
つまりかの世界の象徴たる災いの事象の因子としてこの場にあるのだ。
「…待て、ならば元の世界に吐き出されるならば、何も問題ないではないか。あの世界は元から…いや、俄には認め難い話だが元からそうであるなら、その因子として認識されていようが変化はないはず──」
『吐き出す先、分かんない、移ろい過ぎて、生きた人が来た事ない、ない?ないから』
「……だとしたら異なる世界に。いや、そうしたところで人間一つ分の因子が入り込んだところで…」
『思える?分かんない、実感、なら、見て知って』
「!?」
それは、霧の時代と後に呼ばれる災厄の時代の姿。
辺りに漂い続ける霧は空をも薄紫に変え、生物は人間動物植物問わず生物という物を魔物に変えてしまう大きな災い。
その霧から逃れる手段はない。
魔界の門より放たれる希釈をされない最高濃度の魔力達は生物の魔力の許容量を簡単に飛び越えて生物の肉体を変質させ、殺意の化け物にかえる。
魔物は人が簡単に倒せる物ではない。
魔物はもう二度と元の姿も、感情も、取り戻すことはない。
それを止められるのは勇者ただ1人、勇者の命を以て門を閉じる以外の道はない。
「……」
それもこれも、あの計画の、あの一件が招いた結果だ。
その負債はあの世界にいる人々へ、そしてその不始末の分は勇者と呼ばれる少年へ。
「………」
オルヴァンの家族は、どうなるのか。死んでいった人々の家族は、遺された子供達は、皆は
「…………」
そう、この様な災いを招いたのは
「…………………俺の…」
「俺の、責任だ……」
俺達、と言わなかったのは。もはや彼しかもういないからだ。
「…………この様なことを起こす、因子を…運んではならない。罪のない人々からこれ以上奪っては、ならない…ッ」
嘆きたい、こんなはずではなかったと、こんなの望んでないと喚きたい。だが、今1番嘆きを口にしたいのはその分の負債を負わされたあの世界の人々なのだ。
だから
『どうする?』
「因子は、世界からの認識が要…なのだな」
だから
『そう、そう』
「………なら、因子の優先度を最弱にしたら、良い…他の世界からの認識を要に変えてしまえば良い…俺という存在を弱くしてしまえば事実上の無効化が可能だ」
『………するの?』
「ああ……」
この後、これからどうなってしまうのだろう。
ここまで、数多の屍を踏み台に生き残ってきたのに。だけどこの選択をする以外、それに報いる術が思いつく事はなかった。
死は救いではない、生も救いではない、男はただ償う為にこの命を選ぶ。
命を選ぶ為に、捨てるのだ。
「…ッ」
「俺は……おれは……っ」
「俺は、この、真名を…放棄する!!」
ただ、ただ、不器用な人間だったのだ。