故に、操縦桿も錨もなく大海にまた放流される船は語る。

「友よ、また明日の地にて──」

かつての友とで今生の別は済ませた。
その分再会を願う別れはこの場所にて、男はその姿を消す。
去る物を追わず、来る物を拒まず、故に男はまた無限の旅へと漕ぎ出す。

この世界は今もこれからも闘争と人々の賑わいに満ちていくのだろう。

良い闘争を──

かつて、仲を深める為にと同僚達に誘われたが断った事があった。
それで嫌な顔をする者はおらず、妊娠中の姉の様子を見に行くと伝えれば寧ろ皆は新たに生まれる命に乾杯だと笑っていた。
またいずれ埋め合わせをすると言った分の埋め合わせも出来ないままに自分だけになってしまった。

「遅くなってすまなかった、乾杯」

虚空に向かってジョッキを掲げる。
手にあるジョッキはかつての友へ、首に下げるアミュレットはここからの友に。

思えばこの地で取り戻したのみならず、沢山の物をもらった。戦いの記録、経験、思い出。
その為の感謝の挨拶回りぐらい気の利いた事をしておいた方が良かったかとも思ったが、やめた。

「……そうか」
男の顔に似て愛想のない返事の様だが
「助かる」言葉に反して、貴方に伝えたい物はいつだって明確に。

「…完成した絵柄は、どうなってるのだろうな…断片からは、まだ分からない…だが、だからこそ…そうだな、じゃあ聞いてもらうか…少しばかり、辛気臭い話になるやもしれんが」

「……バラバラだな、パズルみたいだ。だが、最近思い出したのは…以前思い出した物より……前の記憶な気が、する…」
明瞭ではない言い回し、本人も上手く纏っていない様な感じで。人目を少し気にするような様子ではある。
「…そうか、満腹だったか。じゃあ、また別の日に食べてみると良い……オススメだ」

「俺も、初めて食べる味をしている…何だろうこれは。
　……その後か………また、ほんの少しだけなら…まだモヤがかかってるような感覚だが」
して、試合で何度か見かけたハチと呼ばれた人物と手元の皿を見比べて。
「………これ、美味いぞ」