RECORD

Eno.53 オルヴァン・フォンスの記録

とある語り部

「諸君ら、ご機嫌よう。
 ああ、しかして此度の私は只の語り部。観客が主張をするなどとんでもない。舞台の上に上がるは貴殿等、筋書きの読めぬ舞台ならば私が観客であろうとも無論…喜ばしいとも。
 ああ、ああ、しかし私は無粋な事をひとつせねばなるまいよ…客が舞台に立つ者について言葉を尽くさねばならないのだから──」

「さて、本題に行くとしようか……真名を捨てるとはどういう事かご存知かな?」

「まず、我々にとって真名とは、決して明かさぬもの。
 真名とはその個体の生命の流れ、ルーツその物同然でありその存在を侵されない為の最強の防護機構であり、1番の弱点。故に、その名前を知られる事はその知られた相手に存在そのものを握られる覚悟が必要」

「知られるだけでもそれ程に厄介な代物であるというのに、捨てたらどうなるか…想像がつくかな?
 ああ、なんと恐ろしい事だろうか。私でも真名を放棄はしない、そうするメリットがないどころかデメリットしかない故な」

「存在が脆弱になるのだよ。
 この世界では闘技者として存在をしているが、世界によってその存在を、立場を、書き換えられては渡ってを繰り返す事になる。例えば…そうだな、魔王がいたとしよう、魔王として定義される事もあるかもしれない、或いは最初から死体として定義されるかもしれない。
 無論他者から存在への干渉を受ければそれを防ぐ術もない」

「オルヴァン、あの男が記憶を抱こうとも、その名を抱こうとも、渡るたびにまた落とし、その世界での自分の在り方を永遠に問う事となろう」

「しかし、それでなおその選択をした事は凡庸とは言い難い。
 故に、私は称賛しよう…愉快であるが故に。それを、悲劇にしてしまわなければ良いが、そうなっては何せ…つまらない」

「まぁ、ともあれ私はただの観客。
 我が手を離れていった旅する子を、私は送るのみ…」


「良い旅を」