RECORD
Eno.270 『血雨』のユーファの記録
己のための思考メモ・3
ユエリ・ジオティア。
橄欖の実の方と同じく、試合で刃を交え、試合後に声をかけた人間。
魔法と剣術を組み合わせ、純粋な剣術にはできないことを可能にした少女。
……そして、わたくしを友と呼んだ、数少ないわたくしの友人。
彼女とは何度か言葉と刃を交わしたが、研鑽された魔法と剣術を持つ剣士であると感じる。
本人は魔法のほうが得意だと口にしていたが、魔法と剣術、どちらも鋭く磨き抜かれていたと強く記憶に残っている。
はじめて会った日以降も試合の中で何度か刃を交えたが、どの試合も心躍るとても良き時間だった。
……彼女について一言で称するなら、優しい人間だ。
彼女はわたくしを優しいと評するが、真に優しいのはわたくしではなく、彼女のほうだ。
わたくしのような者を迷わずに友人と呼び、手を差し伸べ、親しくしてくれる――これを優しいという言葉以外でなんと言い表せばいい。
ともに酒を酌み交わした日も、彼女のほうが先に潰れてしまったがとても楽しいと感じた。
あの巨大なフルーツパフェにともに挑む約束もして――友人と過ごす穏やかな時間を、彼女は提供してくれる。
わたくしに友人と呼べる者は少なく、いるのは同じ暗闇で育った同胞たちばかり。
そんなわたくしが友人と過ごす時間を経験できているのは、ひとえに彼女のおかげだろう。
姉君がいるらしく、ともにフラウィウスへやってきたという。
現在は姉君と別行動を取っているようだが、彼女の話によれば姉君もかなりの実力を持つ剣闘士である様子。
いつか試合で刃を交えてみたいところだが、現時点ではその機会は訪れていないから残念だ。
……しかし、家族が傍にいない寂しさはわたくしもよく知っているから、見ていて少々心配になるものがある。
彼女はきっと、陽の当たる場所で育ってきた人間だ。
彼女もまた善人であり、わたくしとはあまりにも反対な人間。
きっと、多くの人間に手を差し伸べて温もりを分け与えられる――そんな人物だろう。
……もし、彼女がこの先――……。
――――――――。
――――――。
――――。
――。
そこまで文字を書き記したところで、ユーファは浅く息を吐き出した。
こうして己の思考を可視化するのも三度目だが、やはりこうして目に見える形にしてみると、いかに自分の調子が狂っているのかがよくわかる。
感情を殺し、仮面を身につけ、本性を隠すために振る舞う――過去はきちんとそれができていたはずなのに。
嘘を重ねるのも普通にできるはずなのに、一つ重ねると胸の奥がずしりと重くなる。
彼女との間にあるのは純粋な友人関係。
同じ闇の中で育ってきたという共通認識のない、表の世界で生きる人間たちが築いているものと同じ友情。
自分が手にするとは思っていなかったもので――ああ、だからきっと、こんな不安を抱いてしまうのだろう。
「……本当に、わたくしらしくもない」
小さな声で自分自身に呟き、いつものように最後の一文を書き記す。
他者に見られぬようにそれをしっかりと片付け、冷水を浴びるためにふらりと水場へ足を向けた。
――もし、彼女がこの先、わたくしが血に濡れた竜だと知ったら、どんな顔をするのだろう。
橄欖の実の方と同じく、試合で刃を交え、試合後に声をかけた人間。
魔法と剣術を組み合わせ、純粋な剣術にはできないことを可能にした少女。
……そして、わたくしを友と呼んだ、数少ないわたくしの友人。
彼女とは何度か言葉と刃を交わしたが、研鑽された魔法と剣術を持つ剣士であると感じる。
本人は魔法のほうが得意だと口にしていたが、魔法と剣術、どちらも鋭く磨き抜かれていたと強く記憶に残っている。
はじめて会った日以降も試合の中で何度か刃を交えたが、どの試合も心躍るとても良き時間だった。
……彼女について一言で称するなら、優しい人間だ。
彼女はわたくしを優しいと評するが、真に優しいのはわたくしではなく、彼女のほうだ。
わたくしのような者を迷わずに友人と呼び、手を差し伸べ、親しくしてくれる――これを優しいという言葉以外でなんと言い表せばいい。
ともに酒を酌み交わした日も、彼女のほうが先に潰れてしまったがとても楽しいと感じた。
あの巨大なフルーツパフェにともに挑む約束もして――友人と過ごす穏やかな時間を、彼女は提供してくれる。
わたくしに友人と呼べる者は少なく、いるのは同じ暗闇で育った同胞たちばかり。
そんなわたくしが友人と過ごす時間を経験できているのは、ひとえに彼女のおかげだろう。
姉君がいるらしく、ともにフラウィウスへやってきたという。
現在は姉君と別行動を取っているようだが、彼女の話によれば姉君もかなりの実力を持つ剣闘士である様子。
いつか試合で刃を交えてみたいところだが、現時点ではその機会は訪れていないから残念だ。
……しかし、家族が傍にいない寂しさはわたくしもよく知っているから、見ていて少々心配になるものがある。
彼女はきっと、陽の当たる場所で育ってきた人間だ。
彼女もまた善人であり、わたくしとはあまりにも反対な人間。
きっと、多くの人間に手を差し伸べて温もりを分け与えられる――そんな人物だろう。
……もし、彼女がこの先――……。
――――――――。
――――――。
――――。
――。
そこまで文字を書き記したところで、ユーファは浅く息を吐き出した。
こうして己の思考を可視化するのも三度目だが、やはりこうして目に見える形にしてみると、いかに自分の調子が狂っているのかがよくわかる。
感情を殺し、仮面を身につけ、本性を隠すために振る舞う――過去はきちんとそれができていたはずなのに。
嘘を重ねるのも普通にできるはずなのに、一つ重ねると胸の奥がずしりと重くなる。
彼女との間にあるのは純粋な友人関係。
同じ闇の中で育ってきたという共通認識のない、表の世界で生きる人間たちが築いているものと同じ友情。
自分が手にするとは思っていなかったもので――ああ、だからきっと、こんな不安を抱いてしまうのだろう。
「……本当に、わたくしらしくもない」
小さな声で自分自身に呟き、いつものように最後の一文を書き記す。
他者に見られぬようにそれをしっかりと片付け、冷水を浴びるためにふらりと水場へ足を向けた。
――もし、彼女がこの先、わたくしが血に濡れた竜だと知ったら、どんな顔をするのだろう。