RECORD

Eno.270 『血雨』のユーファの記録

欲を抱く


 欲は捨てるべきだ、と幼い頃に学んだ。
 何もかもが足りなく、少しの物も奪い合いになる掃き溜めの町で生きていくには、大部分の欲は邪魔なものだった。

 欲があるから足りないものがあるとわかってしまう。
 欲があるから足りない現状が苦しくなってしまう。
 欲があるから息苦しさと辛さが消えない。
 必要なのは生きたいという強い意志、その他の欲は捨てるべきだと幼い日のわたくしは学んだ。
 ……だというのに。


 耳にした声が己の中から消えない。
 脳裏に浮かんだ考えが心に深く刻まれたまま消えない。
 触れたら穢してしまいそうで怖いのに、手を伸ばしたくなってしまう。



 ……これを、欲といわず、なんというのだろうか。