RECORD

Eno.270 『血雨』のユーファの記録

光を浴びるということ


 人や生き物は死後、どこに向かうのかという話を聞いた。
 光が神を作り出したという教えの下、光を神聖視する宗教の存在を知った。
 光の信仰について教えてくれたシスターからは、光には当たっておいたほうがいいという助言をもらった。

 フラウィウスに到着してから知った神の教えは、ユーファにとって興味深いもの。
 神の存在を信じずに生きてきた身であるユーファにとって、神の存在を信じる教えは自分の中に存在しない知識で――だからこそ、興味深かった。
 けれど、同時に少し思う。

 己が生まれた国は、人間にしか光が当たらない国。
 獣人や亜人は光に当たって暮らすことを許されず、竜種亜人として生まれた自分や自分を産んだ母も例外ではなく、陽の当たらない掃き溜めの町での暮らしを余儀なくされた。
 母の死後は掃き溜めから見世物小屋へ、見世物小屋が何者かに摘発されれば暗殺者を育てる組織へ――そして、一人の暗殺者としての道へ。
 ユーファという竜族の少女が見てきた世界は暗闇ばかりで、いつしかユーファの目もすっかり暗闇に慣れきっていた。
 それこそ、少しの光で戸惑い、目を焼かれそうになるほど。

 光に当たるべきなのだろうとは、自分でも思う。
 けれど、思ってしまうのだ。
 こんなにも暗闇に慣れて、血を浴びて生きてきた自分が、光に当たっても――神はお許しになるのだろうかと。
 自分のこれまでの生は、とても天へ顔向けできないものだろうから。

「――……」

 ぼんやりと晴れた空を見上げ、手を伸ばす。
 神が本当に存在するのなら、この命を――生を許してくれるだろうかと不安になるのに。

「……ふふ」

 これからも、こうして光に向かって手を伸ばしてしまうのだろう。
 光の下は暖かいのだと、知ってしまったから。


 一度知ってしまった以上――知らなかった頃には、もう戻れない。