RECORD
Eno.270 『血雨』のユーファの記録
がん、と目の前にある木製の人形へ刃を振るうたび、手に衝撃が伝わってくる。
互いの武器が打ち合った瞬間に近い衝撃は、試合の中で何度も味わってきた衝撃に近い。
――けれど、己が今、思い出してなぞろうとしている衝撃には程遠い。
「――……」
他に誰もいない剣闘士用の演練場。
早朝の透明な空気に満たされた中、無言でひたすらに刃を振るう手を止め、打刀を握る己の手を見つめる。
打ち合った際に感じた衝撃をまだ覚えている。
繰り返し打ち合う中で次第に広がっていった手の痺れも覚えている。
こちらが少しばかりはしゃいでも、変わらず冷静に判断を下していたあの目が記憶に焼き付いている。
思い返すだけで、高揚感と同時に飢えや乾きにも似た衝動が沸き起こる。
「……どうしよう」
その場に一人でしゃがみ込み、打刀から手を離して俯き、顔を隠す。
後々が苦しくなるだけだと、己の首を緩やかに絞めるだけだと、幼い頃に学習していたはずなのに。
――欲しいものが、できてしまった。
戸惑い
がん、と目の前にある木製の人形へ刃を振るうたび、手に衝撃が伝わってくる。
互いの武器が打ち合った瞬間に近い衝撃は、試合の中で何度も味わってきた衝撃に近い。
――けれど、己が今、思い出してなぞろうとしている衝撃には程遠い。
「――……」
他に誰もいない剣闘士用の演練場。
早朝の透明な空気に満たされた中、無言でひたすらに刃を振るう手を止め、打刀を握る己の手を見つめる。
打ち合った際に感じた衝撃をまだ覚えている。
繰り返し打ち合う中で次第に広がっていった手の痺れも覚えている。
こちらが少しばかりはしゃいでも、変わらず冷静に判断を下していたあの目が記憶に焼き付いている。
思い返すだけで、高揚感と同時に飢えや乾きにも似た衝動が沸き起こる。
「……どうしよう」
その場に一人でしゃがみ込み、打刀から手を離して俯き、顔を隠す。
後々が苦しくなるだけだと、己の首を緩やかに絞めるだけだと、幼い頃に学習していたはずなのに。
――欲しいものが、できてしまった。