Eno.426 柚子澤 零都

■ 第五日目 ロシアンキノコと35歳のヒモ


今日が本当の五日目だ……
しっかりしろ、俺!


バーバラスを日本に連れていくという約束は
もし本当に船に乗ることが出来たら、という条件付きではある
俺は半信半疑だが、希望は持っていたい
希望は生きる気力に繋がるから

バーバラスと話しているうちに
どうやら……ある大切な人に関する記憶だけ、妙に霞がかかって思い出せないことに気づいた
もしかして、俺に関する記憶が消えてるんじゃなくて
その人に関する記憶が消されているんじゃないかと、怖くなった

……何かを思い出す
この感覚は、誰かに呪いを受けたときのものに似ている
その二度の呪いは、どちらも優しさに溢れていた
優しさにも似た、愛情のような呪いだ

だが、これは殺意にも近い
…………

妖精のケイに、呪いに詳しいか聞いてみた
ケイは分配や分業に意識を回してくれるし、優しいし、警備員の経験も頼りになる
最初は心を開きかけて、色々話してみたんだけど…
………妖精って、人間の悩みに興味無いみたい……?
しょんぼりしちまってたんだが
でも、この系統の話なら知識があるんじゃないかと思ってさ

そしたら、どうやら俺の記憶喪失は
たぶん呪いのせいじゃないかってことがだいたいわかった!

解呪してもらえるか聞いてみたら、一応方法があるらしい?
うまく行くかはわかんねえが……俺が記憶を取り戻してもっとまともに動けるようになったら
(取り戻しても大して変わらない可能性はあるけどな!?)
よりみんなの生存率が上がるはずだから
やってみる価値はあると思う

ドラム缶を使うらしい
呼びかけたら礼くんがくれた! ありがてえ…
そして俺はドラム缶をゴロゴロと運んだのだった



礼くんがロシアンキノコパーティを提案した…
皆で一斉に怪しいキノコを食い、生き残るのは誰だ!? を競うという恐ろしいゲームだ
俺は全身の血の気が引いた!
何としてでもそんな自殺行為は止めないとな!

バーバラスに怪しいキノコを渡されて…
俺は過去にキノコを食って死に、すぐさま医者である恋人に救命されたことがあることを思い出した……
泣いちゃった………

そして礼くんはなんと居候、もといヒモをしているそうだ
そのワードにあまりに身に覚えのある俺は、一気に現在の境遇を思い出した

俺は、売れないお笑い芸人をしている医者のヒモだ・・・・・・・・・・・・・



思い出したとしても、言えない話もある
キノコに関係する記憶は、かなり最近のものだが……ところどころ思い出すことが出来た

恋人の性別すら思い出せないが、とても大切にされていたことは覚えている





遂に恐怖のロシアンキノコパーティが開催されてしまった……やったら暴れるぞと警告したのに…!
俺はキノコで死んだことのある男として、怪しいキノコの恐ろしさを全力で後世に語り継いで行かなくてはいけない使命を持っている
芋さんからもらった警官服を着て、
怪しいキノコを食ったみんなにタライで海水を浴びせかけたのだった

皆無事だったから楽しい夜で済んだけどなァ…!?

バーバラスから『祝!記憶半分回復!Tシャツ』をもらったので、嬉しくて写真を撮った

無事に五日目が終わった