Eno.10 エリオ・エリキサ

■ エリオ・エリキサ 無人島生活の記 そして、それからのこと

船は来た。
乗っていたのは親切そうな人だった。

この世界は、いろんな世界の海を切り取って取り込む性質があるという。
島が沈んじゃうほど潮が満ちるってのも、ヨソの世界から人がくるのも、そのせいらしい。
ボクの場合は『光』のせいだし、ちょっと違うけども。

今、ボクは動き出した船の上でこの日記を書いている。
ボクらの島―――銀河島―――がどんどん小さくなっていく。
このまま、人知れず沈んでいくんだろう。
ちょっと、寂しいけど……

いろんなことがあったけど、生き抜いたんだ。
ボクたちは。

縁の下の力持ちって感じがしたアルゴレルさん。
引っ込み思案だけど優しそうだったコーラルさん。
元気いっぱいでちょっと不思議なヒトリンさんと、それを支えたもう一人のヒトリンさん。
そして、とっても頼もしくって料理上手だったマーティスさん。

今はまだいっしょにいるけれど、もうすぐお別れだ……
それぞれ違う世界から来たのだから、今後会うことがあるかどうかはわからない。
だけど、ボクはみんなのことは一生忘れない。

ありがとう、みんな。





















――――――――――――

あれから何日か過ぎた。

銀河島を出てったら気が抜けちゃったのか……ちょっと日記を書くのを忘れてた。
今日は全部思い出して、一気に書いちゃうことにする。

あの後、アル=ゼヴィンの海へ送ってもらってる途中、甲板に注ぐ日差しが急にまぶしくなって……
気がつくとボクは、元いたアフティ=ボゥのビーチにつったっていた。
時間も数分と経ってないみたいだった。

ボクはキャンプを取りやめにして、すぐ家に帰った。
『光』に巻き込まれたことを伝えると、姉さんは、そのまま倒れちゃうんじゃないかってくらい驚いて……それから、ボクを抱きしめた。泣きながら。
……ボクも、大声で泣いた。赤ん坊みたいに。
止めようがなかった。

次にボクがしたことは、トライガーディアンズに手紙を書くことだった。
もし『光』に関して知っていることがあったら情報提供をしてほしいって呼びかけがあったからだ……特に、実際あって生きて帰ってこれたのなら。
あの、ボクらに島のことを教えてくれたボトルメールのまるごと書き写しと、ひろったカメラで何枚か撮っといた島の写真を証拠に添えて、手紙を出しに行った、その矢先……

通り道の公園で、死茸族の男の子と地竜族の女のヒトが何やら話していた。
男の子のほうは、サッコ・ベノと呼ばれてた……え、ええ??
……ボクはとっさに、声をかけてしまった。

地竜族のヒト―――ラーザ・モデュラスさんはトライガーディアンズのヒトで、
サッコに『光』の調査をしてくれないかとお願いをしたんだって。
で、たまたまお互いこの辺にいたのでお話してたみたい。
ボクの話もすぐに信じてくれて、よくがんばったな、ってほめてくれた。手紙もあずかってくれた。
ラーザさんも少し前に、『光』に巻き込まれたことがあるんだって。

サッコとも話をしたけど……なんていうか、背格好はボクとそんな変わらないのにずっとオトナに感じる。
『光』でヨソの世界に飛ばされてる間は年をとらないっていうから、それを計算に入れるともう中身は16、7歳くらいなのかな、って……

ボクはどうだろう。
今度のことで、少しはオトナになれたんだろうか。
みんなのためにできたことより、みんなからしてもらったことの方が多いって、ふりかえればそう思ってしまうけれど……

ついさっき、父さんと母さんが毎月くれる手紙が届いた。
いつもどおり、元気にしてるか、勉強はうまくいってるか、って。開拓の最中に見つかった見なれない生き物とか、できてきてる街の写真とかも……
返事に『光』のこと書こうとも思ったけど……わかってる。本当は大変なことや辛いことも十分たくさんあって、でもボクらに心配かけたくなくて書かないんだって。

だから、ボクもナイショにしとくことにした。
いつか直接父さんと母さんに会いに行く、その日までは。

その日は、きっと来るって信じてる……
いや、その日まで、ボクは何があっても絶対、元気に生きてく。

父さんと母さんも、元気でいてね。

<エリオ・エリキサ 無人島生活の記 おわり>