Eno.61 随行者のクラーレ

■ 【随行者のクラーレ】


週末を迎え、人に代わり生きる屍が支配せし、死の惑星と化した世界の後日談。
その世界に同じく生きる屍ながら、『姉妹』達と過ごし旅をする少女が数人。
その一人、「随行者のクラーレ」という。


かつての青く美しい世界は度重なる戦いと争い、人々の欲にエゴで穢れ落ちて行った。
宇宙へ飛び出す努力も虚しく、死者を用いる戦争と第二の太陽が総てを壊してしまった。
そんな世界の後日談、何処までも救いは無く絶望だけの世。


だからこのシマに流れ着いた時、目を疑った。
油や粘菌の浮かばぬ海。青く透き通り、嘗て人が謳歌した歴史の『母なる海』。
そして凶暴な動植物なき森林。肉食虫も、補色植物も存在せぬ平和な森林。


ただ、これが幻だったらとずっと疑いの中にいた。
それでも短くはない時間をここで過ごした。食べた味も全て本物だった。
人の温かさを知った。だから……。


今船に乗って、この日誌を残しているのもきっと……。
このシマ、ノルマンディー諸島で出逢えた人達の温もりのおかげだと思っている。
生きる屍にも心はある。心があるが故に悪意に満ちた世界は絶望の色で視えている。
そこに自ら戻りに行くのは正気の沙汰ではないだろう。恐らく。
戻りたくはないが、戻る理由は十二分にある。


『姉妹』の為。私はこの後、船員の青年に自分の世界の話をするだろう。
そして「着いたら速やかに引き返せ」と告げるつもりだ。
どれだけ強くとも、人が舞台に上がる事はもうない世界だ。だから……。
『姉妹』達には海岸線の調査結果だけを告げる。何も無かったと。


でも、このシマでの出来事は一つ、思いついた作り話として話しても良いか。
……そろそろ、出航だろう。料理でも食べながら、思い出に浸ろう……。