Eno.426 柚子澤 零都

■ 第七日目 ほんとうのサバイバル


歌うまサバイバル芸人。
でも自活できるほどは売れてない。
そのくらいが俺の今の立場だ。

崖っぷち芸人の無人島サバイバル企画。
以前も同じ番組でサバイバル企画があったが、その時は悪天候で中止になって途中で帰ってきた。
今回は二度目。今度こそお茶の間に俺の姿を焼き付けてやるという気合充分で、
俺は無人島に向かう船に乗り込んだ。

船を突然、高波が襲った。
船が傾き、俺は成すすべもなく波に攫われ、そこで記憶は絶えている。
目覚めた時はこの島の砂浜に立っていた。



一気に全部思い出したから、脳がオーバーヒートして高熱を出して倒れた。
俺が海に行かないようにケイに拘束された。
礼くんは額に冷たいペットボトルと濡れた布を交互に乗せてくれた。
バーバラスは葉っぱで扇いだり、太い血管のある部位を冷やしてくれたりした。
芋さんは首に巻き付いて俺が海に行かないように見張ってくれた。


熱が下がった。
すぐに魚を釣りに行った。大漁だった。
しばらくぼーっとしてた。

飲食にじゃまかなあと気を利かせてくれた芋さんが俺の首から離れてくれた。
気が付いたら俺は海のなかにいた。
沖に向かって歩いていた。
海面に映った星屑が見たかったんだ。
浜の北にある岩礁にも、歩いたら行けるような気がした。

夢に浮かされてるみたいだった。あんまりよく覚えていない。
背後の波打ち際で、礼が独り言を言っていた。
大きな波が礼を襲っていたのが見えた。


腰まで海水に漬かった状態で、闇から船影が見えた。
船舶照明の白い輝き。
耳をつんざく汽笛。

ああ、助かった。
船に向かって大声で叫んだ。
生存者、4名と1匹。

救難救助要請。

急いで浜に上がってたいまつを作り、
ともしびを持って大きく腕を左右に振った。







これでこの島での冒険は……
『ほんとうのサバイバル』、はおしまいだ。
どうして危険な夜の海に歩いて入ろうとしたのか、よく思い出せない。
礼は、娘の霊のしわざだなんて言う。

………

正直、礼の言うこと――信じられたわけじゃねえんだ。
ただ、この島なら。
そういうことも起きるのかもしれない。

そんな風に思った。


礼に連絡先を教えて、
バーバラスを連れて、
この巡視船に乗って俺は日本に帰る。

みんなありがとう!
確かにこの島はバカンス、リゾート、かもしんねえな。
記憶喪失の間、ずっと苦しかった。
思い出そうとするたびに起こる爆発のフラッシュバックが恐ろしかった。
常に襲撃者に恐れていた。
心が休まる暇は正直、全然なかった。

だけどみんなが無人島生活を全力で楽しんでいるのを見て、
すごく救われてた。
バカな大騒ぎもした。ま、キノパはただのバカじゃ済まねえけどな!?


さよなら、みんな。
なんかまたすぐ会えそうだけどなあ?
バーバラスはこれから色々大変だろうが、元公務員として出来ることはしてやりたい。
でも俺が売れないヒモの芸人だってことは忘れないでくれよな!?
頑張れよ、バーバラス。
ま……バーバラスの強運とフットワークがありゃ、大丈夫か!

……はは。

諦めない、って決めた。
何度でも這い上がる。大切な人が応援していてくれる限り。

生きていこう、この島を出ても。
サバイバルは続いていく。
平穏な世界でも。





柚子澤零都







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柚子澤 零都は写真を撮りました!カシャッ




星屑アロハシャツ島全員集合!




バーバラスにもらったTシャツ!
















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余談
どうして娘がいま
死んでから八年半も経って俺の前に出てきたんだ?
礼に聞いても、何を話したのかは教えてくれなかった

なんでだろ……?






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柚子澤の物語は続いていくらしい……
To Be Continued.......?