RECORD

Eno.140 鶴賀 陽仁の記録

バカはバカなりの

小学校4年の夏、休日に父親に連れられて河川敷に来ていた。
いつも出かける時は母親も一緒のはずなのに、今日ばかりは2人きりだ。
正直なんとなく理由はわかる。

「……父さん、今日はどうしたの」

周りに誰も居ない河川敷、対峙するように立っている。

「お前、最近学校でいじめられたな……?」

「…」

「それで、相手と喧嘩を初めた。お前がやりすぎたのも知ってる。相手の親から学校に連絡が行ったらしい」

俺があまりにもバカで、悪目立ちして、目をつけられて。
やられた事は大したことじゃなかった、でも俺は気に食わなくて…。

「…弱いくせに変なことするからだよ」

喧嘩した、殴り殴られ…でも俺はバカだから加減なんて知らなかった。
相手がどうなろうと、気が済むまでやった。
結果的に止められて、最悪の怪我にはならなかったらしいけど。

「……父さんはな、いじめた奴が悪いと思ってる」
「そのうえで、お前が喧嘩を始めて、やりすぎたのはよくないとも思ってる」

どっちだよ…。

「お前に教える事がある。冬姫にも教えた物だ」

姉さんに教えた事

「まずお前には喧嘩の術になる事は教えん。上手く殴りかかる事を覚えれば、お前はバカだから気に食わなければ誰にだって振るうだろ」

父親は持っていた杖を伸ばす。

「お前に教えるのは、護身術だ。今から俺はこの杖でお前を小突く。一つは軽く、一つは悪意を持って突く。軽く突かれる時は何もするな、本命はもう片方だ。その時、お前は杖を好きに叩け」

「は?何を無茶な…」

その瞬間に手や足を次々とド突かれる。

「痛ぇ!!なにすんだよ!!」

「言ったことをやれ。これから毎日のようにやるからな」

力加減はわかるけど本当にわからない。
何が悪意なのか。


初日は本当に何も出来なかった。

数日、所々が痛い、でもわからないなりにやれる。
まぁ時々姉さんが見に来てダメ出ししてくるのは嫌だけど。

「父さん、護身術は良いけどなんでこんなやり方なんだよ。もっとあるだろ」

わからないなりに杖を引っ叩いてる。
間違ってると次が痛い。
マシになってきてから色々な動きが加わってきてる。余計にわからん。

「お前はバカだからな。構えとか型とか教えても覚えられないだろ」
「だから身体に覚えさせる。バカでも身体が覚えていれば、お前は咄嗟に動ける。運動だけは得意だからな、陽仁は」

なんか普通にバカにされた様な気がする。
蹴る、叩く、殴る。あれから素手とかじゃなくて防具はつけてるけど。
未だに悪意がわからない。

「なんで悪意?のあるのだけなんだよ」

「何にでも反応してたら意味ないだろ。友人が肩を組みに来ただけで殴ってたらどうしようもないからな」

まぁ、そうか。そうか?
段々と妙な感覚を覚えた物を対処し始める。
というより、軽い小突きは気にもならなくなってきた。

「大丈夫だ、川崎に住んでたら嫌でも役に立つ。いじめの為とかだけじゃないからな」

「…なんでそんな地域に住んでるんだろ…」


そんな感じで1年半。
完璧…かどうかは全然分からないが姉さんが言うにはまぁいいぐらいらしい…感じにはなった。
その後、姉さんの案で束都中学への進学の話になり、中学受験という最悪シナリオが始まったのだ。
結局、川崎を出て北多摩に住む事になるんだからいらなかった努力だったなと思う。

時々落ちてきたり倒れてきたのに反応しちゃうからまぁ…身にはなってる…んかなぁ…?