RECORD

Eno.232 月影誠の記録

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「何でお前はしんみたいに勉強がでけへんのやだアホ!」


「今日も漢字テストが85点しかあらへんかったんやろ!
 何でこんな簡単なこともでけへんねん!」


「このワークがでけるまで部屋から出てくんな!
 飯も食うな、甘ったれんなクソガキ!」


「真を見習えやこのアホタレ!!」





―― あんな大人にはなりたくないから、せめて人には優しくありたいと思っている
優しくできなければ、あいつらの同類だ。


こちらの学校に来てからは毎日が楽しい。
赤点だけ取らなければ好きなことをしていて大丈夫。誰かに怒られることもない。
別に暴力を振るわれたわけでもないし、できる兄のように励まされたとも取れなくはない。
親の言う通りに勉強をしなかったのは俺自身だ。

勉強できることが全てではない。
人を見ずに勉強しろなど、それでしか優劣を計れない人間の戯言だ。
一蹴にして、し続けて。逃げて、耐えて、我慢して。
やっと手に入れた自由が、ここにある。



逆らうと決めたから。
同じになってたまるかと、川の流れの反対へ行こうとしているから。
俺達は、俺達が好きに生きていいはずだから。
だからせめて。せめて、同じにならないために。
折れないために、飲まれないために、優しく在りたくて。
できていなかったの、かもしれなくて。



「それは……ごめん。別に月影がガチで優しくないって思ってる訳じゃなくて……。寧ろかなり優しい部類。
 というか別に、優しくないからって親と同じって訳でもないと思う」

「僕とか人にクソ冷たいし」



「平穏に、当たり障りなく過ごしたいみたいな意地ってのは分かるよ」


「だから、別に優しくなくてもいいじゃんってのも、多分君の両親とは違うだろってのも、僕の個人的な感想。
 聞かなくていいし、気にしなくていいんだ」




―― 誰の中にも残りたくない。特別なんて、ましてや論外で。
当たり障りなく生きて、ただの高校生であって、振り返ったときにあんまり思い出せないような。
そのくらいの立ち位置で、居ようとはずっとずっと思っているんだけど。

追いかけてくれたの。
本当に……凄く、嬉しかったな。