RECORD

Eno.103 長谷場 成の記録

透明な歩み

 朝7時半。
 成の家は北摩モノレール西部区間にあり、大学からそう遠くはない。
 しかし成は毎朝、この時間に家を出て、ヤッホー横丁の西部北摩公園を経由し少し遠回りをして束都京帝大学へ向かった。
 時々立ち止まり、足を曲げ伸ばししたり、地面を踏みしめて感覚を確かめる。
 ──もう10年にもなるのだから、大丈夫。
 そう自分に言い聞かせようとするが、それでも毎日この日課をやめることができなかった。

 神秘は科学と相反する存在であり、科学によって完全に否定されると弱化・消滅してしまう。
 この街に来て聞かされ、初めて知ったことだった。
 それを聞いてからというもの、成の胸は不安にざわつき、それをかき消そうと彼女の家に入り浸り、勧誘されるままにサークルに入り、ことさら明るく振る舞うようになった。

 ──まあ、そうなったらなったで仕方ないか。

 成は本気を出さないことを信条としていて、何事にも力を抜いて当たる。
 しかし決して無気力なわけでもなげやりなわけでもない。
 ある一定で、諦めるだけだ。

 この件については成がどういう心持ちであろうと訪れる時は訪れるだろうし、生涯無事でいられるかもしれない。
 ならば、深く考えるのはここまでにしよう。
 そうして成は、いつものように目を瞑った。