RECORD

Eno.220 笹杜 梨咲の記録

野望と抱負

…………よし。


無機質にいくつもの番号が並ぶ画面。
そこに自分に割り振られた数字を見つけ、内心呟いた。
タブレットを机に置くと、軽くため息が出た。
大丈夫だとわかっていても、緊張していたのかもしれない。


入試の自己採点は、正直、かなりよかった。
入試直前まで毎日、机に嚙り付いて勉強してた成果が出たともいえるし
ここまで勉強して成果が出ないと困る、ともいえる。
そんなわけで、不合格になる心配はあまりしていなかったのだけど
むしろ本番はここからだ。


高校の勉強は、中学までとはガラリと違うという話を時々聞く。
中学までは成績優秀で通っていた子が、
高校の授業に付いていけなくなった……なんてエピソードは
それこそ繁華街にある自販機の数ほど聞いた。
だからこそ、ここからが正念場なのだ。


私は天才じゃない。
かと言って、勉強が楽しい!と言えるタイプの秀才でもない。
努力する凡才。それが私。

だから、入試の結果もおそらく1位ではないはずだ。
それで構わない。2位でも3位でも、10位でもいい。
最終的な目的が達成されれば、途中経過はなんでもいい。


叶えたい望みがある。身の丈を越えた、分不相応な夢。
それを実現するためには、努力するしかない。
幸い、勉強することが耐えられないほど苦痛に感じることはない。
私が持ってる武器は、それだけ。
これをコツコツ磨いて、研ぎ澄ませる。
そうすれば……。


と考えた所で
「……梨咲、どうだった?」
ソファでぼんやりする私に母が控えめに声をかけてきた。
「ん、合格だったよ。普通に」
「そう!よかった! おめでとう梨咲、毎日頑張ってたもんね~!」
「そうでもないけど…ありがと」

本人以上にキャッキャと喜ぶ親に、無意味な見栄を張ってしまった。
我ながらしょうもないと思う。
もっと大人になったら、素直になれるんだろうか。


「今日はお祝いだねえ、せっかくだからどっか食べに行こうか?」
「いいよそんなの、大げさだし」
「そう? こんな時くらい食べたい物言ってくれてもいいのに」
「……じゃあ、ぶりの照り焼き食べたい。お母さんの」
「そんなのでいいの? それじゃ、張り切って作っちゃうからね!」


ボソボソと答えると、母は腕まくりをする勢いで買い物に出掛けて行った。
その背中をソファの上から見送って、再びタブレットを手に取る。
画面を数度タップすると、無料の動画配信サービスサイトが開く。
そこから、高校生向けの講座チャンネルを再生すると
メガネのやや癖が強そうな風貌をした男性講師が映り、にこやかに挨拶をはじめた。



ここからだ。
ここからが勝負だ。
必ずやり遂げてやる。



液晶画面をにらみつつ、タブレットに繋いだイヤホンを耳に突っ込んだ。