RECORD

Eno.279 葦原奏翔の記録

1∶陽が出ずる先に【葦原奏翔】

奏一郎「奏翔、もしもお前が此れから先の事をまだ見据えていないのであれば
私達が勧めるこの高校に進学してみないか?」


中学3年生の受験シーズン
将来の事を、今後の進路を決めあぐねていた俺に
両親は一つの学校案内をまとめた小冊子を手にして進学先を勧めてきた
其れには"陽出高校學校"という名が記載されていた
両親が言うに
"自由"を謳い
"共存"、"共栄"、"立志"を校訓とする高校らしい

詩音「進路担当の先生から貴方がまだ進路の報告がないって連絡が来たの
だから、もしも貴方が迷っているならと思って二人で調べていたのよ
此れを読んで考えてもいいし
貴方がやりたい事や目指したい進路が他にあるなら私達は貴方の意思を尊重するわ」


母はそう言い、父は妻の言葉に同意するように頷きながらその小冊子を俺に手渡して
普段と何も変わらない様子で其々の家事や作業へ戻っていく
其れが俺がこの高校を知り
進学しようと決めたきっかけだった





歌音「奏兄かなにぃ、ホントにその高校に行くつもり?」

妹、歌音が昔から呼ぶその言い方で俺に問う

「ああ…其処で様々な事を識り、学ぶ事にするよ」

元々、将来について見据えていなかったのは事実
けれども最終学歴が中学なのは心許ないと理解っていたし、数年前に発覚して中学から行ってきた秘め事だけでは世の中やっていけない 今の己にとって支えとなっているのは事実として
此れからどうしたいかを自覚するには必要と
そう考えたから彼等両親の勧めに乗ってみようと思った
妹は其れに納得したのか応援するとだけ言ってくれたけれど





それから数カ月後
陽出高校に進学
晴れて高校生となる入学式の早朝
窓から夜の帳が明けていくのを己の部屋から眺めていた

次の夜明けが また訪れる
己の人生はあの日からずっと夜の帳が下りたまま何も見えていないというのに
否応無しに無常にも現実に於いて夜明けというものは必然に訪れる

「…此れから出ずる陽が俺の人生に"何か"を照らし、齎すのならば」



今、己の足で踏み出す時なのだろう
様々を識ったその果てに何があるのか確かめ、見定める為に











陽が出ずる先にて彼は果たして何を得、何を識るのか
両親の勧められるまま入った高校、その制服の袖を通した彼は部屋の窓に広がる黎明の空を望む






【葦原奏翔】