RECORD

Eno.625 綴喜 了然の記録

『魔術師の死』

 
世界は一人の魔術師が見る夢だった。

ある時、魔術師が死に、それを境に夢は、世界は崩れていく。
遺された夢に住まう人々は、夢の残骸をかき集めた。
そうして幾許かの夢を纏った者だけが、正しく魔術師と呼ばれるようになり。
自分達の住む、新たな世界を創造想像しようとした。

そして、


「…………」



そして目が覚める。
見た夢は未だ全て鮮明なまま。
最近になってずっと続いている。
神秘に触れた影響のひとつだろうと縫目さんは言っていた。

『魔術師の死』。
幼い頃、祖父の書斎で一度読んだきりの本。
その内容を、今になって夢に見るとは、なんとも暗示めいている。
それが示唆するものは、わからないけれど。

いいや。わからないわけではない。
ただ、推測が合っている確証もないというだけだ。

『自分の事を信頼していないなんて、そんな悲しいこと言わないで』

自分というものは、人間というものは、
間違う生き物だということを認め、受け入れているだけだ。
それを悲しいことだとは思わない。


この頃寝ても疲れが取れない。鮮明な夢と地続きの疲労を引き摺っている。
今はまだ、それでも何とかなっている。けれど。
いつかは限界が来るのだろうか。

何れにしても。

綴喜了然は生きなければならない。
それが己の果たすべき責任だからだ。