RECORD

Eno.269 阿久比 正義の記録

[前日譚]神秘の修行

山の中、老人と少年が向かい合っている。
二人共和服を着ており、およそ現代らしいとは言えない服装だが

「今日は我が阿久比流の極意の修行を行う。全てわかっているだろうが、改めて復唱してみせよ」

老人が少年に重々しく伝えれば、少年も顔を引き締めてそれに答える。

「はい。
我が阿久比流は古くは戦国時代。殿様に仕える影のもの。現代の忍者。その影踏まれるべからず。日常に溶け込み察知されることなく影としての任を行うもの」



ツラツラと述べていく。何度も言わされているのだろう。
覚えている内容を伝えきれば目の前の老人は満足げに頷いて。

「よろしい。では、今日は忍術の修行を行う。まずは基本から」

老人が大きく息を吸い込む。その肺活量は常人では信じられないほどのもので。
ブオオオ!!
次に吐き出されるその息は、炎の息吹となり眼前の木を焼き焦がした。

「さぁ、お前もやってみよ」

その言葉に頷いて少年も大きく息を吸い込む。
その肺活量は老人には遠く及ばず、常人よりは少し多い程度だろうが。

「おおおっ!!」



吐き出されたものは確かに炎だったが、老人には遠く及ばず。
眼前の木を焼き尽くすに及ばず焦がした程度で終わる。

「…まだまだ、じゃな」

それ以上のことを言わずに老人はその場を去っていく。
そんなところを少年は悔しそうに、歯ぎしりを零して地面を殴りつけた。

「クソッ…。これじゃあ、俺の思う正義は確かに実行できない。忍術も、もっとできるようにならないと…」



そのまま少年はその場を離れることなく、何度も同じことを続ける。
修行は夜遅くまで行われ、帰る頃には彼の口周りは火傷で酷いことになるが。
それもまた、いつものことだった。