RECORD

Eno.225 葛山の記録

弟切荘101号室



『新学期は上手くやれてるか?』

「うん」

 高校に進んだのを区切りに親元を離れて、ここ西部地区のアパートに下宿している。
 実家は東部地区であり、束都高校から遠いというのが大きな理由だった。

『もし困った事あったら言いなさい』

「……うん」

 電話越しの父親に相槌を打つ。
 困った事、ないでもないが親に言う訳にもいかない。
 ひょんな事から神秘の跋扈する裏世界に迷い込んでしまい、表の世界を守る活動に協力させられています……なんて言えるか。

『そういえば、インターンシップ始めたんだったか』

 そう、親にはこう伝えている。
 最近、職業体験とアルバイトを兼ねて、カレントコーポレーションへインターンシップとして入ったと。

『まだ高2なのに就職の事を考えるには早過ぎないか? どういう風の吹き回しなんだ』

 父親の声に疑惑が混じる。

『……本当に、何を考えているんだ。お前は』

 訝しがられるのも当たり前だ、日頃の行いが悪い。

「色々……色々あって。
 将来地に足のついた生活をするならいつまでも子供の気分ではいられない。
 この先行きの不透明な時代を乗り切るためには、社会への意識を高めビジネスとは何たるかを学んでおくべきだ。
 僕はそう思った訳ですよ」

 大きな溜息が聞こえた。

『全くこの減らず口が。誰に似たんだか』

「妹と似てるって良く言われるね」

『似てなかったら問題だろうが』

「えっと……まあ、家賃分くらいは自分で稼ごうかと思っただけだよ。社会勉強ついでに。
 友達もやってるし」

 まるっきり嘘という訳ではない。僕にも親になるべく苦労をかけさせまいとする良心はあるのだ。

『…………。
 まあ、しっかりした企業だから妙な事にはならんと思うが。頑張れよ』

 一応、納得して貰えた。多分。

『あと、偶にはこっちに帰って来い。
 あっくんが最近帰って来ないって、母さんともえちゃんが寂しがってるぞ』

「……父さん」

『何だ』

「未だに息子と娘をその呼び方するのはどうかと思う」

『今更変えられるかい』

「じゃあ取り敢えず、近々帰るから……」

 就寝の挨拶の後、通話が途切れて、1Kの部屋に静けさが戻った。
 そのままスマホを手放して目を閉じる。照明は点いたまま。

「……あ」

 そこで、ふと何か心当たりがあれば連絡しろと水崎さんが言っていたのを思い出した。
 ……まあ、今度にしよう。夜遅いし。
 僕は眠りに落ちる。