RECORD

Eno.468 月澪 銀の記録

『神秘』

「………またか」

駅のホームドア。講義室の扉。スーパーの自動ドアや押し入れの引き戸に至るまで。
近頃様々な場所から『裏』につながってしまっている。
「ゆらぎ」というものの悪影響の一端を垣間見たような気がする。
しまいには「門」とはいいがたい、木と木の間からも移動する始末だ。これでは閉めても閉めてキリがないだろう。根本原因を断たなければ、表からの流入は増える一方だ。

駅のホームから階段を下りていくと、悲鳴が聞こえた。
人の声。私は舌打ちをして声の方向へと向かう。

襲われていたのはどうも人間の女性のようだ。相手は、よくある不定形の、黒い靄のような怪奇。
女性は恐怖でもう声がでないようで、ぱくぱくと口を動かして後ずさりするが、壁が背後に迫っていた。
私は15mほどの距離まで近寄ると、素早く腕を横薙ぎに振り、黒靄に向けて突きだすように動かす。すると、怪奇の手が女性の体に触れる瞬間に、銀色が鞭のように煌めき、靄がかき消されるように消えていった。

「大丈夫?」

そう声をかけると唖然とした表情で私を見る。どう思ったのだろうか、それは分からない。
コロニストの門衛部の連中に連絡を入れると、ほどなく保護されて行った。
保護されていく様子を見送って、一人駅の壁に背を持たれかけて、腕を眺める。
ずるりと半透明で光沢のあるモノが蠢くように体内へと戻っていく。

体は人間で、精神もそうだけれど
「私もまぁ、見た目だけなのかもね」
自嘲気味にそういうと、気を取り直して駅を後にした。