RECORD

Eno.701 舞霧縁華の記録

味の指標

……私は、味が分からない。

正しく言えば、よく分からないと言うべきかな
砂糖や塩を舐めれば甘さやしょっぱさは多少は分かる。

ただ、それだけ。

複雑な味わい…所謂美味しさ、というのは分からない。
幼い頃に負った火傷で舌まで焼かれ、味覚の殆どを失った。
それ以降、何かを食べて美味しいと感じたことは無い。
…いや、それ以前にも殆ど無かったのだけれども。

躾の厳しかった両親は、私には勿論間食を許してくれなかった。
出される料理も精進料理のような厳かなものばかり
子供の味覚では、それらは苦でしかなかった。
蒔花は望むままに好くなものを食べていたのに。

結局、欲しても殆ど手に入らず
漸く好きに食べれるようになった頃には味は分からず…
味覚を失ったと気が付いた時には、
皮肉な運命だなと思わず苦笑が漏れたのを覚えてる。

誰かにお菓子を貰っても、誰かとお弁当のおかずを交換しても
それらが美味しいのかすら分からないのは、申し訳ない気持ちにはなるし
味見が出来ないから、自分の作る料理も何時だってレシピ通りにしか作れない。
だから、自分の料理も美味しいのかも分からない。

けど

       『縁華飯美味すぎ〜。』
        『こんなの食べさせられてたら
             まあ、自立は無理よね。』


私の片割れが、笑ってそう言う。
私と瓜二つで、性格は正反対な自由奔放
嘘を付くのだって苦手な子が

そうすると、何故か少しだけ
同じものを食べると美味しく感じる気がした。