RECORD

Eno.57 天野 葉月の記録

追憶

 12のとき、ジジイが死んだ。
 煙草も酒もやりすぎて、あちこち患った年寄りだ。いつぽっくり逝ったって、おかしくない人ではあったが。
 それでも私は、その時、静かに見送るもんだと思ってた。

 古い人間だった。
 躊躇なく私の頭に拳骨を落とす。怒鳴る。憎たらしくてしょうがなかった。
 厳しい人だった。
 今思えば、自分一人で孫を育てることに気負っていたのだろう。

「――いいか、葉月。身だしなみには気を遣え」


「悪いことはするな、周りが悪人だらけになる」


「ちゃんと飯を食え、ひもじいとテメエの心まで痩せるぞ――」


 ――あの日戻ってきた亡骸は、可能な限り整えてあったが、大きく欠けて・・・いた。
 ……まともな死に方じゃあない。
 さぞ怖かったろう。70過ぎの男が今更に、理由もわからず為す術もなく、惨めだったろう。

「…………」


 この世に怪奇とやらがあるのなら、ジジイを殺したのはきっとそれだ。
 そして私はこれから、そいつから人を守る立場になるのだという。 

 ……ジジイの直接の仇なんざ、今更わかりっこないが。
 これを頑張れば、少しは報いることができるだろうか。
 やり場のない憤りは晴れるだろうか。

「……見てろよ、ジジイ。私はやるぞ」


 遺影の中の仏頂面を眺める。
 煙草と線香の煙が、天井辺りでたちこめていた。