RECORD
Eno.69 牙ヶ崎 剣の記録
牙ヶ崎焔は、昔から明るい子だった
物覚えが良く器用で、文武両道の博愛主義者。
その優しさに付け込まれることも少なくなかったが
どれだけ裏切られても最後まで笑顔で信じぬく、底抜けのお人好し。
そんな教科書の様な善人のまま、彼女は中学2年生の春を 迎えていた。

『お母さん、行ってくるね!』
内側がまるで正反対の姉とは、未だ切れぬ絆で繋がれているけれど
互いのコミュニティや生き方を尊重した結果、共に居る時間は少なくなっていた。
勿論、登下校も別々 それで構わない、双子はその程度じゃ変わらない。
底抜けの人の好さは悪い人もたくさん寄せ付けたけれど、
中学生になる頃には焔を守る友達もたくさん出来たおかげで
彼女の毎日は 太陽のように明るい日々だった。

『流石ガガガギちゃん!』
『やめてよ~、その変なあだ名!』
軽口を交わしながらストップウォッチを覗く
幼いころから走ることが好きだったから、陸上部は毎日が楽しい。
部内で1番と言う訳ではないものの、日に日にタイムを縮めていく感覚は気持ちが良かった。
嫉妬の眼が背を刺す感覚に、気づかない程鈍くは無かったけれど
自らの能力に責任を持つこと、手を抜かないことを信条としていた彼女は
そんな妬みの感情さえも背負いこんだ。

―――大丈夫、私は大丈夫。
全力で勉強して、全力で部活に励み、全力で遊んで。
へとへとになって帰る頃には、黄昏の色が町を染めて
橙が濃紺と混ざり合う様を眺めながら、玄関へとたどり着く。
『おかえり、焔――。』

食卓には、3人分のおかずとご飯。
焔と……父と母の分だ。
いつしか剣には、家庭内で料理を振舞われることは無くなって
その代わりにお札を一枚、渡されるのが当たり前になった様で。
『いただきます』の言葉を告げて、3人で談笑しながら摘まんでいく。
和気藹々と まるで最初から3人家族だったかの如く。
そんな夜の時間も 気づけば駆け足で過ぎていき……。
それから、歯を磨いて、ケアやお風呂を済ませて、
明かりが消えて両親が寝静まったころ。
焔は姉の部屋の扉を、大きな音が鳴らぬよう指先で弾く様にノックする。
『お姉ちゃん……起きてる……?』

友達と遊ぶのは、好きだ
たくさん走るのが、好きだ
勉強も辛いけど、好きだ
お母さんもお父さんも、皆好きだ
けれどやっぱり、この時間が一番大好きだ。
『お姉ちゃん、辛くない?』
『辛くないよ アタシには焔が居るからね』
姉はいつだって、そう言ってくれた。
私たち姉妹は表裏一体だから お互いの理屈や考えに
首を縦に振ることはできなくても、いつだって共感していた。
姉は、愛することしかできない私の代わりに、
世界を憎んでくれていたから。私に出来ないことを
全部やってくれていたから。
だから二人で一緒に居られるこの時間が。
話して、喋って、代わりに怒ってくれて、代わりに笑う
大切な時間 私たちを一つにする、何よりも尊い空間。
『……お姉ちゃん』
『どうした?』
『……明日、誕生日だね』
『ああ』
『水族館、楽しみだね』
『そうだな』

両親には、焔の言葉だけが届く。
だから誕生日の日は、二人で行きたい場所をこの時間に決めていた。
誕生日の日だけは、剣も一緒に居ることを 許されていたからだ。
『ほら、焔 もう戻れ 寝不足は嫌だろ』
『うん ……おやすみ、お姉ちゃん』
焔はそっと、自室へと戻る。
明日はずっと 大好きな姉のそばに居られる。
そんなドキドキを抱えたまま、目を瞑り。

【6月6日】
この日は、双子が生まれた日を映したかのような 大雨だった。
③太陽
牙ヶ崎焔は、昔から明るい子だった
物覚えが良く器用で、文武両道の博愛主義者。
その優しさに付け込まれることも少なくなかったが
どれだけ裏切られても最後まで笑顔で信じぬく、底抜けのお人好し。
そんな教科書の様な善人のまま、彼女は中学2年生の春を 迎えていた。

『お母さん、行ってくるね!』
内側がまるで正反対の姉とは、未だ切れぬ絆で繋がれているけれど
互いのコミュニティや生き方を尊重した結果、共に居る時間は少なくなっていた。
勿論、登下校も別々 それで構わない、双子はその程度じゃ変わらない。
底抜けの人の好さは悪い人もたくさん寄せ付けたけれど、
中学生になる頃には焔を守る友達もたくさん出来たおかげで
彼女の毎日は 太陽のように明るい日々だった。

『流石ガガガギちゃん!』
『やめてよ~、その変なあだ名!』
軽口を交わしながらストップウォッチを覗く
幼いころから走ることが好きだったから、陸上部は毎日が楽しい。
部内で1番と言う訳ではないものの、日に日にタイムを縮めていく感覚は気持ちが良かった。
嫉妬の眼が背を刺す感覚に、気づかない程鈍くは無かったけれど
自らの能力に責任を持つこと、手を抜かないことを信条としていた彼女は
そんな妬みの感情さえも背負いこんだ。

―――大丈夫、私は大丈夫。
全力で勉強して、全力で部活に励み、全力で遊んで。
へとへとになって帰る頃には、黄昏の色が町を染めて
橙が濃紺と混ざり合う様を眺めながら、玄関へとたどり着く。
『おかえり、焔――。』

食卓には、3人分のおかずとご飯。
焔と……父と母の分だ。
いつしか剣には、家庭内で料理を振舞われることは無くなって
その代わりにお札を一枚、渡されるのが当たり前になった様で。
『いただきます』の言葉を告げて、3人で談笑しながら摘まんでいく。
和気藹々と まるで最初から3人家族だったかの如く。
そんな夜の時間も 気づけば駆け足で過ぎていき……。
それから、歯を磨いて、ケアやお風呂を済ませて、
明かりが消えて両親が寝静まったころ。
焔は姉の部屋の扉を、大きな音が鳴らぬよう指先で弾く様にノックする。
『お姉ちゃん……起きてる……?』

友達と遊ぶのは、好きだ
たくさん走るのが、好きだ
勉強も辛いけど、好きだ
お母さんもお父さんも、皆好きだ
けれどやっぱり、この時間が一番大好きだ。
『お姉ちゃん、辛くない?』
『辛くないよ アタシには焔が居るからね』
姉はいつだって、そう言ってくれた。
私たち姉妹は表裏一体だから お互いの理屈や考えに
首を縦に振ることはできなくても、いつだって共感していた。
姉は、愛することしかできない私の代わりに、
世界を憎んでくれていたから。私に出来ないことを
全部やってくれていたから。
だから二人で一緒に居られるこの時間が。
話して、喋って、代わりに怒ってくれて、代わりに笑う
大切な時間 私たちを一つにする、何よりも尊い空間。
『……お姉ちゃん』
『どうした?』
『……明日、誕生日だね』
『ああ』
『水族館、楽しみだね』
『そうだな』

両親には、焔の言葉だけが届く。
だから誕生日の日は、二人で行きたい場所をこの時間に決めていた。
誕生日の日だけは、剣も一緒に居ることを 許されていたからだ。
『ほら、焔 もう戻れ 寝不足は嫌だろ』
『うん ……おやすみ、お姉ちゃん』
焔はそっと、自室へと戻る。
明日はずっと 大好きな姉のそばに居られる。
そんなドキドキを抱えたまま、目を瞑り。

【6月6日】
この日は、双子が生まれた日を映したかのような 大雨だった。