RECORD

Eno.232 月影誠の記録

邂逅②

俺は見知らぬ地に出たとき、めちゃくちゃワクワクする人間だった。
母親曰く、俺の悪ガキ時代はスーパーで手を離せばダッシュで明後日の方向へはぐれていくから、
目どころか手も離せなかったと言っていた。
そのくらいのやんちゃなガキだ、って言っても流石に明らかにおかしいことが
起こっているってのに動じなかったのはどうかしていると思う。

「ゥウウ、ルルルル」



「おっ? ザリガニか?」



ザリガニが陸地で唸ったりするか。というツッコミは今だからこそできる。
後ろから唸り声が聞こえてきたから、釣り竿を構えながら振り返る。
この時点でやる気満々だけど、相手は思ったよりでかかった。

自分の背を倍にしたって足りない大きさの山犬。
黒っぽくって瞳は赤く、謎の模様が入っている。
首には紅色に輝く輪っかが自己主張激しめにピカピカしていた。

「――――、」



上から見下ろすように、俺のことをじっと睨む。
黄昏時だからこそ強調される眼光。狙った獲物は逃がさぬという意志。思わずぞくりと震え、気づいたときには叫んだ。


「か、」



「かっけぇーーーー!!」


「!?」



「すごぉーーー!! でっけぇわんこーーー!!
 マジで!? こんなイカしたわんこがこんなとこにおんの!?!?」


「!?!?!?」



怖いもの知らずにもほどがあるって? 俺もそう思う。
襲われるとか、食われるとか、そんな恐れなんてつゆ知らず。
瞳をキラキラさせ、ニチアサの戦隊ものを観戦するテンションでにじり寄っていった。
良い子は絶対に真似しちゃだめだぞ。

「ガウ、ルルルッ」



「ちょ、待てや! どこ行くねん!」



数歩山犬が後ずさりしたかと思えば、そのまま身を翻して歩いていく。
それを猛ダッシュで追いかけるが、体長5mもある山犬の徒歩の速度ですら厳しいものがあった。
それでもザリガニよりもずっと大物を見つけた俺は逃がさんの一身で食らいつこうとする。
向こうからすると、奇妙を通り越した悪ガキに映ったんだろうなぁ。



そうして走って追いかけて、何やら門のようなものを潜り抜けたと思えば。


「……ん、あれ? 狼おらん?」



「てか、ここ俺ん家か?」



気付いたときには門限間近で家の庭に帰ってきていた。
誰に言っても信用されないだろう話。
俺はあのときアザーサイドに踏み入れて、クロと出会った。



なお、当時は怪異とか神秘とか何も知らなかったので。


「なあなあなあなあオカンオカン聞いて聞いて!!
 今日ごっついでっけぇわんこおってなぁ!
 俺の身長よりバリ高かってん!
 ごっつない!? 俺あのわんこ飼いたい!!」




家族にめちゃくちゃ話したし、友達にも自慢した。
なお、家族にはゲーミング首輪をしたシベリアンハスキーだったと認識された。