RECORD
Eno.494 御機嫌盗りのトージャクの記録
──そこは北摩市郊外のダム湖。
昼間は巨大建造物目当ての観光客や放水の轟音で賑わうその場所も、
深夜を回れば管理用の薄暗い常夜灯が光るのみで、
昏く冷たい水面に、魚が跳ねる音すら聞こえそうなほど、
静かな世界が広がっていた。
その切り立った断崖に、人影が一つ。
少年は常夜灯の光の中にあって、
水面のように昏い瞳をダム湖へと投げかけていた。

突然、声がかかる。
欄干を掴んでいた少年は飛び上がるように振り返った。

常夜灯の頼りない幹にもたれて、
それは嗄れた声で言った。

ダム湖の淵にて①
──そこは北摩市郊外のダム湖。
昼間は巨大建造物目当ての観光客や放水の轟音で賑わうその場所も、
深夜を回れば管理用の薄暗い常夜灯が光るのみで、
昏く冷たい水面に、魚が跳ねる音すら聞こえそうなほど、
静かな世界が広がっていた。
その切り立った断崖に、人影が一つ。
少年は常夜灯の光の中にあって、
水面のように昏い瞳をダム湖へと投げかけていた。

「釣れますか」
突然、声がかかる。
欄干を掴んでいた少年は飛び上がるように振り返った。

「何って……こんな時間に水辺に来る好き者は大抵夜釣りでしょう。
それにしちゃあ、竿も餌もお持ちでないようですが。
けれどもし、そうじゃあないとしたら……、
一つ、お願いがあるんですがね」
常夜灯の頼りない幹にもたれて、
それは嗄れた声で言った。

「あんた様が命を捨てるその心持ち、
溺れて事切れるその瞬間を……私に譲っちゃもらえませんか」