RECORD

Eno.232 月影誠の記録

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裏世界で一線を越えた高揚を抱いたまま表世界に渡った際に発生する不調を『バッドトリップ』と呼んでいる。
本来は向精神薬を服用して起きるものらしい。これはそういうものではないし、
神秘を抱える者が等しく起こる問題、というものでもない。

自身の抱える『神秘本能』が、精神性と強く結びついている。
故に、そう勝手に呼ぶことにした。


あまりにもバッドトリップが酷くて、ずっとずっと頭がぐるぐるして。
吐き気が止まらなくて、人の気配に気が立って。
こういう場合は人の居ない静かな場所に移動して、症状が治まるまでじいとしておく。
今日はネム先輩の約束があったから学校に向かったけれど、本来なら1日休むべきものだ。
酷いときには、自身の欲と理性の境界線が曖昧なまま、その手を挙げかねないから。

帰ろうとして、帰れる調子じゃなくなって、屋上で休んで。
そうしたら葛山に遭遇して、他に聞かれるような人もいなかったから話した。
勿論遠まわしに、けれど察せるような言い回しで。
多分今俺の事情を一番知っているのは葛山だと思う。
話しても、あんま無理すんなよの一言で終わるから本当に助かる。


午後からは出席して、ゆきむねに午前中のノートを見せてもらった。
帰り際に北兎の言葉に家族のことを思い出し、八つ当たりしてしまった。猛省。
バッドトリップが起きていたとはいえ、夕方には収まっていたも同然。
気が立っていて流せなかった、なんて言い訳だ。
SURFを見て、気にしなくていいと言ってもらえているのは分かる。
けれど。
優しくない自分は、なりたくない自分だ。
なりたくない自分になってたまるかという意地で、表を生きる。
優しい自分で在りたいから、裏で生きるという選択肢を選ばない。



今日もきっと、皆は楽しくそれぞれの日常を送っているのだろう。
クラス内でも、外でも。彼らの日々が平穏であるならば。

今日も境界線の外側から。
俺が誰の記憶にも残らないことを、祈っている。



「―― 明日は。明日こそは。
 俺が、俺で在りますように」






そんなこと言ってたらザリガニを704匹釣り上げていた。は??????