RECORD
蹄の痕

裏を歩く。
まるで熊の、縄張り後みたいなね、痕痕痕。
熊なんかこの辺に居るのかな、居ないかな。
迷い子ばかりだ、ここは。道は繋がると言うけど、ここに道はあったかな。
ここはどこの細道だ。細枝みたいに木々が軋む。
何かの居た痕、鬱蒼の朱色に消えた。
ざぱ、ぱしゃん。水を、蹴る音。
ああまただ。また迷い込む。上と下で星が瞬いて、光って、ちらちらと揺れ広がっている。空が手に届く、空を踏んでいる。
水の音。

裏を歩く。
みーん。みーん。みーん。みーん。みーん。
蝉の合唱、じりじりと黒い背と頭を焼いてくる。
思考の隙間を埋めて耳から頭にねじ込まれる、大合唱する夏の大声。
湿気を纏った空気を吸って、温く蒸す様な息を吐いた。
きっと、水を浴びれば少しはマシになりそうなものなのに
辺りにあるのは向日葵、向日葵、向日葵! 地面に咲く太陽が、明るい
黄色が強い日差しで反射して、視界を眩く照らすんだ。
みーん。みーん。みーん。みーん。みーん。
水の色したインナーカラーを揺らす。蝉の声が聞こえる。
上着まで、しっかり羽織った学ランが中で蒸れて、肌に汗の伝う感覚。
「 」
何か声が聞こえる? 聞こえない。だって蝉の声しか頭に無いんだ。
生えた尻尾がどこかの向日葵の、
茎を撫ぜる。傷をつける。そこから倒れる。先に進む。
笑う向日葵の音に振り向いて、立ち並ぶ向日葵がこっちを見ていた。
みーん。みーん。みーん。
前を見るのも重たくなる様な、気怠い夏の中。悪魔の子。
足取りばかりが遅くなる。立っていた向日葵を掻き分ける。
笑い声、蝉の音。聞こえる? 聞こえない。まぶしい。暑い。
ここはどこだろう?
果ての無い向日葵を歩いていた。
かつん。ヒールじみた高さをもつローファーの音。
尻尾が靡いて、ゆらりと揺れたんだ。何かの、気配がする。何かの。
誰だろう? かつん、かつん。
静かだなあ。
『■■駅、■■駅』
『次のrrr__……、……』『____』
独り歩き。

裏を歩く。
ぎし、ぎし。さび付いた機械の音がする。
人気の少ない、赤い色に焼かれた遊具たち。
燥ぐ子供の声も、浮かれた恋人たちの睦言も聞こえない。
錆びた音と足音だけが、よく聞こえていた。
ギ。
触る鉄の柱が、手の形に歪む。
ゴミになんの価値を見出すか?
残念! 何も無いよ! 必要なくなったから捨てられたんだ。
それを拾い上げることに、意味はあるの?
ぐしゃり、って。握った人形が潰れた。
可愛い顔が台無し。
『あはは』『きゃーっ』
無邪気な、子供の鳴き声が聞こえる。
走り回って、回って、鬼ごっこかな? グルグルグルグル公園の中。
いつまでたっても夕焼け小焼け。
いいね、友達がたくさんで。
『まってまって』『もっと遊ぼう!』
鴉の鳴き声聞こえない。
ふわ。裏世界にしては珍しいかもな。
甘い匂いと、辺り一面のいちご畑!
空も赤ければ地面まで赤いような気がするな。
がさがさと歩く度に学ランに擦れて葉が鳴った。
古い本を思い浮かべる、インクの香り。
散らばった紙を思わず踏みそうになった。
ざり、と炭になった木片を踏む音。
人__らしき気配に意識を向けると、なんだか期限が悪そうな音。
踊っているのか。それが己の主張であるのか。
遠巻きに視界へ移るその姿を眺めていた。不躾。
冷やかしに? 裏を知るために? それともただ踏み荒らしたいだけ?
散歩にしちゃあ。

「やべ。学校サボっちまった」
よくないな。
