RECORD

Eno.138 桃枝 舞十衣の記録

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 ”天使様”と会って話をしたのは、あの日のあの時間だけだった。


 あの日以降、ボクは”天使様”から聞かされた”神話”を絵に描いたり、文章に書いたりした。
 それは貴女学院に入学してからも、数年続いた。おかげでそれらを描いた”ひみつノート”は、六冊にもなった。


 けれど、ヒトの記憶には限界がある。
 年月が流れるにつれて、聞かされた内容が断片的にしか思い出せなくなってきて、もどかしい思いをした。

 だからある日、図書館に行って調べようとした。
 圧倒的な蔵書数を誇る北摩第一中央図書館なら、きっとその”神話”について書かれた本も見つかるはずだ。そう考えてのことだった。


 …………見つからなかった。


 どれだけ探しても、ボクの知っている”神話”はどこにも存在しなかった。

 人に訊ねることはできなかった。
 ”神話”のことは誰にも話してはいけない。これは”天使様”との約束だったからだ。
 ボクはその約束を守って、”天使様”のことも”神話”のことも誰にも話さなかったし、”ひみつノート”も誰にも見せなかった。


 ボクだけが知っている”天使様”。ボクだけが知っている”神話”。



 __あれは本当に、天使様だったのだろうか?



 それは僅かな猜疑心であり、強い好奇心でもあった。