RECORD

Eno.691 名栗 攻介の記録

中学時代5

「試合中は俺の指示に従え」

二年生になって、夏に開かれたキックの個人戦。
コーチは俺にそう念を押してきた。

セコンドにつくのだから指示を聞くのは当然だが
思考を捨てていた自分の中にその言葉は深く沈みこんだ。

8校しかいない階級別の個人戦。
三回勝てば優勝する。

初戦の相手は1分とかからずTKOで勝てた。
一方的に殴っていたら終わった印象だった。

あと二回
あと二回勝てば優勝できる。

そう思いながら二回戦のリングに上がった。
相手は優勝候補の一角と呼ばれた三年生だった。

とにかく相手の動きは洗練されていた。
こちらの攻撃は距離を丁寧に取られ、相手の攻撃はことごとく当たった。

「何やってんだ!根性で攻めろ!休むな!」

コーチの指示は聞こえていたが、相手の距離の潰し方も牽制の仕方も
具体的なことは何も聞こえてこなかった。

自分も思い通りに身体を動かせていない現状に焦りを感じていた。

あれだけ頑張ったのに、あれだけ苦しい思いをしたのに
それなのに、何も通用しない。

それでも休まず攻め続けた。

刹那、相手がバックステップで距離を取ると
ハイキックが自分の首を刈り取り
その夏の大会は2回戦KО負けで幕を閉じた。