RECORD

Eno.295 ーの記録

8.悪夢。

「……っ……!」
深夜。布団から飛び起きた。
「……はぁっ……! はぁ……」
荒い呼吸のまま、目が覚める。最悪な気分だ。
「……また、いつもの夢」
冷蔵庫からお水を取り出し、コップに注いで、一気に飲み干して。
少しだけ、気持ちが落ち着く。

たびたび見るこの悪夢。それは、並行世界のボクの記憶。
「……あぁもう」
かぶりを振る。思考を消し去るかのように。

並行世界の記憶。それはこの能力の弊害。
並行世界に干渉するこの能力は、余計なことをしてくれる。
時折、膨大な量の。この世界のボクには無縁な、いくつもの並行世界の記憶、情報を。
寝ている間に、夢という形で脳内に流し込んでくる。

まだ眠くて回っていない頭のまま、スマホを手に取って。
「……違う。あんな人は、この世界には居ないはず」
ひとつひとつ、下手に記憶を上書きされないうちに。
混濁した記憶との違いを確認していく。

「あの人とボクは軽く話をしただけ」
並行世界のボクとは違って。
「あの人とは、まだ連絡先は交換してない」
並行世界のボクとは違って。
「この人とは、まだそんなに仲良くない」
並行世界のボクとは違って。
「この人とも……この人も……」
……並行世界の、ボクとは違って。
「……ボクは」


「……この世界で、ボクの存在意義って、なんだ?」
小さく呟く。
親からも、きょうだいからも否定され。
並行世界の自分のようにきょうだい仲も良くなく、人付き合いも上手くなく。
いくつもの並行世界を見てきて。いろんなボクを見てきて。
その中でも、をつけられた己に、嫌気がさす。

「……比較対象が自分じゃなきゃな」
どうにも。ネガティブになってしまう。
他者との比較は全然気にならないんだけど。
どうして。どうして他のボクは上手く立ち回れているんだろう?
ボクと違って。
いっそこの世界に、誰か別の並行世界のボクが来てくれて。
うまいことやってくれればいい。その方が皆にとっても幸せな……

……違う。ボクはボクだ。
この世界のボクは、ボクなんだ。他の誰でもない。

「……ダメだ、こういう時には何考えてもダメ。寝よ」
せっかく今日は楽しいことがたくさんあったんだ。それだけ考えよう。
ワイヤレスイヤホンをつけて、おおきめの音量で好きな音楽をかけて。
音で思考をかき消すようにして、楽しかったことだけ思い出して。

しばらく寝付けなかったけど、いつの間にか、また。眠ってた。