RECORD

Eno.113 松林武の記録

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暗い部屋の中で、デスクトップPCの明かりだけがチラチラと光る。
不規則に明滅するその光は、どこか心拍にも似ていて、けれど温かみはない。
スマホから流れる朝の起床のアラームを半ば反射で止めて、少し乱れた布団を被り直すように身を縮めた。
ぼやけた視界の中でもカーテンの隙間から覗いた日差しは見える。
起きないと、とは思いはするのだが、……どうも今日は身体が重い。
一度、意を決して身体を起こそうとしてみたけれど、
起き上がった瞬間に、頭がぐらりと揺れて、視界が歪んだ。
吐き気の前触れに、慌てて口元を手で覆って、ゆっくりとまた横になる。
お茶会やら新歓やらの他、裏世界やら何やら沙汰の、ここ暫くの疲れが出たのかな、と
ぼんやりした頭のまま考えて、Surfでコンちゃんにだけ連絡をした。
今日は講義もそんなに多くないし、このまま引き篭ってしまおうと、
瞼を閉じ直しては意識を曖昧に浸していく。





暗い部屋の中で、デスクトップPCの光だけがチラチラ光る。
その光景をずっと見ていた時期があった。
何も変わらない毎日を、そんな中で過ごしていた時期があった。
しょうもない奴のバカな所を暴いて、勝手に見下して
そんなもので空虚を埋めた気になっていた、頃があった。
……疲れている時一人でいるのは、あまり良くはない。
そんなつまらない事を思い出す。
そしてなにより、
自分の事を一番大事に思って居る癖に、膿を囁いて傷を痛ませようとする
厄介でどうしようもない自分が居ることを知っている。


『俺とお茶したって面白くないだろ』


『俺が可愛かったり、格好良かったりするわけないだろ』


『俺なんかの事を好きになる奴はいないだろ』


そんなくだらない卑屈が胸元にずっと爪を立てて来る。
折角貰える褒め言葉が、こいつのせいで響かない事も多くて、本当に困る。
……それが、今までの失敗が生み出したものだと知っている。




暗い部屋の中で、デスクトップPCの光だけがチラチラ光る。
でも、今の俺は、あの時と違う。
頭痛が落ち着いて来た頃に、布団を這い出して部屋の電気を着けた。
眩しさに少しだけ目を細めながら、ゲーミングチェアに腰掛けて、
その上で身体を畳むような事もしないで、モニターの電源を着ける。
最小化してあるサンドボックスゲームを開いては、そのアバターを神殿へと向かわせる。
神林がゲーム内で建築再現した神殿に向かって、視点を一人称に切り替えれば、キーボードとマウスから手を離す。
机の上に置きっぱなしの、草臥れた聖書を手に取って、適当に開いた所からそれを読む。

今の俺は、自分の救い方を知っている。



──わたしは思う。今のこの時の苦しみは、
やがてわたしたちに現されようとする栄光に比べると、言うに足りない。


わたしたちは、この望みによって救われているのである。
しかし、目に見える望みは望みではない。なぜなら、現に見ている事を、
どうして、なお望む人があろうか。





…………ふと、Surfに何かが来てる事に気付く。
小鳥遊から、ログインしっぱなしになってると連絡を入れて来ていて、
軽く返事をして画面を見れば、いつの間にやらアバターの足元が掘られて埋められていた。

ふ、と少し笑って、暫くそんな画面を眺めてからまた聖書に目を落とす。



──わたしたちの主たる天使の愛から、
わたしたちを引き離すことはできないのである。