RECORD

Eno.625 綴喜 了然の記録

焚書坑儒

 
この記録には自殺を含む表現が含まれます。






























ぎぃ──ぎぃ──

「…………」



魔術師だ。

吊るされた魔術師が、居る。

大樹に自ら吊るされ、世界の真なるを知り、警句を唱える魔術師。
物語の魔術師が、そこに居た。

ぎぃ──ぎぃ──、


「……」



けれど。
物語と違って、魔術師は一言も語らなかった。
大樹に吊るされ得た警句を。





「……」


他愛ない走り書きを。メモを。シュレッダーにかける。
それはこの春になって、すっかり習慣となっていた。

記憶は、何れ薄れ自身の構成要素にかえっていくけれど。
知識は、一度知ってしまえば、知る前には戻れない。
一度神秘に触れてしまえば、考え方は無意識にでも神秘を知る者側のものになるだろう。

曰く、一般大衆に神秘事象について知られることは最大のタブーとされている。

自分の描いたものは何処まで表世界に許容されるのだろうか?
認識されないものは無いも同然。ただ書くだけでは、自分の目的は果たされない。
こうして、書いて、捨てるだけでは、意味がない。

祖父らの後を追うつもりはない。けれど。
結局は自分も、裏世界に消えていくのだろうか?
或いは、禁忌を破り、表世界から名を消すのだろうか?