RECORD

Eno.691 名栗 攻介の記録

中学時代6

「なんで行かせてくれなかったんすか!相手の動きは読めてたんや!」

大会が終わって数週間経ったあと、俺はコーチに喰ってかかった。

大会の時のような情けない結果で終わるつもりか。

練習の時に投げつけられた言葉をどうしても受け流すことが出来なかった。

あの時、自分の考えで動いていれば
指示なんて無視すれば

そんな気持ちがどこかでずっと燻っていたんだと思う。

「負けたのはお前の責任だろうが!根性が無いから負けたんだ!」

「あんな指示で勝てるわけないやろ!クソみたいな指示出してセコンド面してんちゃうぞ!」

言い終わるか終わらないかのタイミングでコーチの拳が俺の顔にぶち当たった。

「舐めたこと言ってんじゃねえぞクソガキ!俺は悪くない!負けたのは根性が無いからだろうが!」

「……指示を全部やり切れば、強くなれるんちゃうんか……それなのに、なんやこの結果は」

揺れる脳が視界を歪めながら恨み言のような言葉を吐くと
コーチは鼻で笑った。

「そんな方法、あるわけねえだろ。あるなら俺が教えて欲しいわ」
「ったく、ガキは何でも言葉通りに信じるからタチが悪い」

馬鹿にするような口調と冷笑。
騙されていたという事実が全身を巡り、生まれて初めて気づいたことがある。

人間は怒りを覚えると身体が熱くなるが
──殺意を覚えると指先が冷えていくのだ。

その後のことは断片的にしか覚えていない。
とにかく、力の限りコーチと殴り合ったことだけは覚えている。

「こんな弱いくせに……偉そうに指導なんかしてんじゃねえ!!」

騒ぎを聞きつけて駆け付けた先生に取り押さえられながらそんな言葉を吠えた。
殴られて腫れたまぶたが視界を半分塞ぎ、流れた鼻血と口内出血が床に跡を残す。

コーチは大の字になって泡を吐きながら魚のように痙攣していた。