RECORD

Eno.269 阿久比 正義の記録

[前日譚]北摩へ来る物語

山の中にある日本屋敷。そこで男性二人と少年が向き合っている。

「正義よ。我らは古からの忍者の血筋。本来は表に生きるものではなく、裏に生きるもの。それはわかっているな?」

老人の横に座る青年が少年へ語りかける。
老人は腕を組んでその様子を眺めており

「そして我らは裏に生き、表にあるものを守る存在でもある。元来忍とは一人の主を定め、そのために命を捨てるもの」

「なればこそ、15を迎えるお前は一人の大人として一度村へと降りるのだ。
 そして世間を知り、表の世界を守れ」

少年は青年の語りを頭下げてただ粛々と聞いている。
言葉は返さず、何度も聞いてきたとばかり。


「住む場所の目処もつけた。学業に関しても俺と師が教えたもので事足りるだろう。
 何か、いう事はあるか」

それ以上何も言わず、大事なことなど何も言わないで。
青年は少年を見る。少年は顔を上げてふたりの顔を見て

いえ。何も言うことはございません。その通りに…表を守るため。忍びとしての務めを果たしてまいります




少年の言葉に満足したのか。ふたりは頷く。


「ならば行けい!次に帰ってくるときには、一人の忍びとして立派に成長した姿を我らに見せよ」

「しかして掟を忘れるな。掟を破るとき…どうなるかは、わかっておるな?」

青年が少年へと発破をかけ、老人が重く低い声で注意をする。
それに対して少年は頷いて返して。そのまま部屋を出て行く。



「…はぁ。大丈夫かな、あいつ。色々ちゃんと教えてやったけど…どこかズレてるというか」


「何をいう。お前のガキの時分もあんなじゃったろうが」


「はぁ!?あそこまでガキじゃなかったぜオヤジ!少なくとも抜刀術にばかりかまけて他をサボるようなガキじゃねえっての!」


「よく言うわ。サボっておなごばかり眺めておったくせに。挙句の果てに15で村へと降ろしたら子供をこさえて帰ってくるなぞ…何事じゃて」


「そういうオヤジも一番上の兄貴が出来た時は15の時じゃねえか!!」


「お前の頃とは時代が違うんじゃ時代が!!」


「対して変わらねえだろうがクソ親父!ったく…。正義、元気で帰ってこいよ」


「ま、そう遠くないうちに嫁でも連れて帰ってくるじゃろ。その必要があるのもわかっとる」


「どうだか」


子供の前では見せない大人たちの素の姿。
少年は知らない。自分の父と祖父が、こうして心配してくれてることを。




いや追い出されちゃったよ…。こうなるとは聞いてたけどさ。本当に突然すぎない?




部屋へと戻った少年は一人絶望の顔になる。
いつかはこうなるとは分かっていても、心の準備なんていつになってもできていなくて。


それでも…やるしかない。僕の正義を通すために!あ、でも掟だけは気をつけなくちゃ…




誤ったからって、■し■になるなんて、ゴメンだから




少年の独り言。誰にも隠す必要のない彼の本音。
山で育ち何も知らない少年が都会へと降りていって




物語は始まっていく